緊張のボリビア入国

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この旅始まって最高級のホテルでぐっすり眠れた。

ペルーの12000円は日本の1万円くらいの部屋だった。

そんな名残惜しいホテルを後に、バスターミナルへ向かう。

ツアーペルーというバス会社でボリビアは事実上の首都ラパスまで7時間の移動。

 

 

名残り惜しきゃペルー。

そんなペルーから向かうボリビアという国。

南米最貧国にして犯罪大国である。

行ってもないのにこんなことを言うのは失礼極まりない。

しかし、ボリビアでの日本人被害者が掃いて捨てるほどいるのだ。

 

 

クスコのカサデルインカという宿は、この季節多くの日本人であふれていた。

もちろんそれは雨季のウユニ塩湖が目当てである。

雨季のウユニ塩湖は日本人が大好きな一面鏡張りの例のアレを見ることができるからだ。

よってついでにマチュピチュ観光もでき、比較的安く南米から出入りできるペルーは交通の要衝となっている。

さらに大学生の卒業旅行シーズンなのでクスコの町は日本人オンパレードなのだ。

 

そんなカサデルインカは北から南から流れてくる日本人の憩いの場。そこには必然と情報が入り乱れる。

そして一番聞いたのはボリビアでの犯罪被害」なのだ。

地球の歩き方などでよく見かける犯罪被害情報。スリ、置き引き、首絞め強盗等々恐ろしい話ばかりだが、注意はしているが所詮他人の話であった。

しかし実際に被害を受けた人の話を聞くとそのリアル感は恐怖に変わる。

 

 

僕が聞いた話では、

・入国の時の荷物検査で財布から金を取られた。

・バスターミナルでバックパックを横におろした隙に、手荷物をかっさらわれた。

・夜行バスで寝ている時に手荷物をナイフで切られて中身を盗まれた。

・ラパス市内で気づいたらiPhoneがなくなっていた。

他にもタクシー強盗やホテルでの盗難等々、魑魅魍魎森羅万象奇奇怪怪とにかく恐ろしい話ばかり。

しかも皆一同に言うのはボリビア人は冷たい。」ということだ。

インディヘナ人口が南米随一のボリビアだが、非常に冷たくて対応が悪いらしい。

 

 

さらにボリビアといえばあのチェ・ゲバラが殺された国でもある。

ゲバラは独裁政権の下で貧困に喘ぐボリビア国民を救うため、大臣職を捨ててまでゲリラとしてボリビアで戦った。しかし、キューバ革命とは違い国民の協力が得られずジリ貧になって捕縛され、田舎の学校で処刑された。

ボリビアに対する僕のイメージも「冷たい」というものであった。

「犯罪と冷たい国ボリビア」そんな哀れなイメージは果たして本当かどうか。それを確かめに行く旅にもなりそうだ。

 

 

最初の難関は入国だ。

聞いた話によると入国の際に気をつけることは3つ。

 

その① ニセ警官

本職の警官のくせに旅行者を足止めし、荷物検査と称して金品をくすねる小悪党。

とくに大好物は日本人らしい。

対処法は入国前後に荷物検査など必要はないので無視すること。

 

その② 入国検査

入国検査の際、手荷物検査と称して中身を物色する。

手段は3,4人で一気にガサゴソし始め、一人が注意を惹き、その間に貴重品や金品をくすねる。

対処法はかならず一人で対応させ、荷物も1つずつ検査させる。

 

その③ お金チェック

入国の際に多額のカネを持っているかどうか(税金がかかる為)のチェックと称し、財布や手荷物から金をくすねる。

対処法はバックパックはバスの中にあり、それはノーチェック。なのでバックパックの底などに金品は隠しておく。

 

 

入国からいきなりハードルが高い。

最大の対処法は「人が多いこと」だという。

入国に行列ができるほど混む時間帯に行けば、荷物チェックなどはする暇がないため安全だという。

よってクスコからラパス直行バスは夜行しかなく、入国ゲートが開いた直後の閑散した時間帯になってしまうためわざわざプーノ経由で行くことした。

さらに付け加えるとペルーからの出入国は2通りあって、北側でなく南側のコパカバーナが安全。

 

手持ちのドルや貴重品もバックパック内に忍ばせる。

圧縮袋の中でTシャツにくるめたり、海パンのポケットに隠したり・・・

財布の中にはダミー用のドルを少額だけ入れておく。

入国で騒ぎになると結局は「入国させまへんで~」と言われれば泣くしかない。

最早、これは運なのだ。

悪徳警官に当ってしまったら泣く泣くカネを支払うしかない。そんな日本人が今まで何人もいたらしい。

やはり欧米人と違って日本人は断りにくいのだろう。カネも持ってるし、反発も少ないとなればカモがネギ背負ってヨチヨチ歩いてくるようなものだ。

 

 

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そんなはじめてのおつかいばりのドキドキ緊張感を携えて、国境まで向かう。

国境までの道はそんな不安を払拭するかのように、チチカカ湖のブルーが映える美しい道だった。峠をうねうねと越える度にチチカカ湖がいろんな姿を見せてくれる。

 

 

 

 

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3時間ほどで国境へ。

ペルー出国を終え、いざ行かん入国の儀。

その時、なぜか突然降りだす雨。幸先が悪すぎる。

しかし、かなりの人数で狭い入国局は長蛇の列。

「シメた!こいつはいけそうだ。」

人生初の長蛇の列での歓喜。USJ30分待っただけで気が狂いそうになる短気な男が丸くなったものである。

先を覗くと、荷物チェックなどは一切行われていない。

これだけの人、さらに白人旅行者が手際の悪さでかなりイライラしているので当たり前か。

 

遂に僕の番。

カメラ見て・・・終了。

 

杞憂。いい響きだ。こういうことはビビリすぎるくらいが丁度良い。

かのゴルゴ13は少年に強さの秘訣を聞かれた時にこう言った。

「俺がウサギのように臆病だからだ。」

2匹のウサギはバスに逃げ込み、やっと安堵するのであった。

 

コパカバーナで一度下車。何故かここで1時間休憩してバスを乗り換える。

入国も無事終わり気分も晴れ晴れだが、安心してはいられない。

スリや置き引きはちょっとした隙を狙っているのだ。

手荷物はお腹の方にあるように掛け、南京錠でしっかりガード。普段もしていることだが、いつもより徹底する。

 

バスを乗り換える。

先程より小さなバスで堅苦しい。

周りはほとんど若いアルゼンチン人連中でお行儀がすこぶる悪い。

時間は守らないし、大騒ぎするし、靴のまま前の座席に足をかけたりする。しかし陽気な人ばかりでなかなか憎めないところは国民性かもしれない。

 

出発直前で揉め事が起こる。

僕らのすぐ後ろのカップルが切符の確認に来たオヤジと大げんかしている。

激しいスペイン語の応酬。さっぱりわからない。

嫁さんの推理の結果おそらくだが、カップルがチケットを買ったのだが騙されたらしい。

オヤジは「このチケットは違うものだから降りてくれ。」というがアルゼンチンカップルは一切引かない。むしろ攻める。さすがメッシやマラドーナを産んだ国だ。攻めの一手しかない。

「ふざけんな糞オヤジ!俺たちゃこのチケットを買ってこれに乗れって言われたんだ。ぶっ殺すぞボリビア野郎!!」

多分こんなことを言っていたと思う。

こんな応酬を30分も続けるのだ。なぜか周りのアルゼンチン人たちがカップルの応援団となり、車内は騒然としてきた。

オヤジはついに折れ、何か吐き捨ててバスから降りる。バスの中は歓声に包まれ、カップルの男のほうが窓から身体を出し、おそらく全文ピー音がつくような言葉を叫ぶ。

 

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そんなラテン系の陽気な集団と2人の東洋人を乗せてバスは行く。

相変わらずチチカカ湖は美しい。その濃い青で湖全体が染料のように深くねっとりと輝く。

バスは湖に降り、ここでボートに乗って対岸へ向かう。

人もバスもボートに乗るのだ。標高3800mの湖でバスがボートに揺られている。

 

 

対岸についてもまだまだ走る。

さすがのアルゼンチン軍団もぐったりお昼寝モードに。

景色は急に砂埃舞う荒野となり、赤茶けたレンガの家が見える。

たまに犬の死体が転がっているくらいで、そんな景色が延々と続く。

ラパスに近づくと大渋滞になった。

車はどれもおんぼろで、町も殺風景。

道行く人を見れば、インディヘナの多さに驚く。

ペルーとはぜんぜん違う。

 

 

出発から8時間してやっとラパスのあのすり鉢状の姿が見えた。

ラパスは世界最高地にある首都で標高は4000m前後もある。

普通、高所のほうに富裕層が住む都市が多いがラパスは真逆であり、すり鉢の頭の方は貧しい人々が暮らしている。

バスターミナルで両替し、2日後のウユニ行きのバスを予約する。

ボリビアではバス内での盗難が多いらしいので、現地人が乗らない最高ランクのバスに乗ることにした。バス強盗なんていう物騒な話があるのでなんともしがたい。

 

 

初めの喧嘩と南米では珍しい安全運転バスのせいで大いに遅れ18時についた。気疲れでへろへろなのでタクシーでホテルまで。

ちなみにタクシーはもちろん危険なので、車体に電話番号が書かれたラジオタクシーに乗る。流しは危険だ。この辺は地球の歩き方を順守。

町は「坂の町」といわれるように、坂だらけ。富士山よりも高い場所でこの坂歩きはさぞや辛いであろう。

ホテルアレムにチェックイン。ツイン90ボリ。やはり物価は安い。

すぐに夜食に向かう。この辺りでは割りと高級な店が多い通りなのだが、道はボコボコでゴミが溢れ、街灯が少ないためかなり暗い。

こういう時は来る人来る人みんな泥棒に見えてしまう。

スリならまだ良いが、首絞め強盗なんて現れた日にはどうしたものか。

やはり貴重品はすべてホテルに隠し、小銭だけで外に出るのが良い。

 

 

恐る恐る入国したボリビアだが、物騒な噂の他に唯一良い所だと皆が口をそろえていった「買い物」に明日向かう。そこには「冷たいボリビア人」というイメージを覆す、楽しい時があった。

 

 

 

210

 

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9時にゆっくりと起きる。

昨日の気疲れのせいか、珍しくゆっくりした目覚め。

楽しい旅の日々では目覚まし時計に仕事はさせない。目が覚めてしまうのだ。

仕事をしていた時に目覚ましを2個枕元においていたのは何だったのだろう?

 

朝食付きなので、朝はゆっくりできる。

今日は買い物だ。

ボリビアの良い所。それは買い物らしい。

物価が安く、布やセーターなどの品質も結構良いという。

「クスコで買うよりラパスが良いよ。」と買い物好き女性陣が教えてくれた。

 

 

 

 

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市場へ向かう。

ホテルアレムはサガルナガ通りといって観光客向けの土産屋から庶民の市場まで幅広く存在する買い物にはうってつけの場所にある。

やはり安いのは市場。しかし、市場といってもペルーのように大きな建物があるわけでもなく露店が狭い路地に入り乱れる迷宮であった。

急な坂を幾重も登り、道に迷いながらも布の店に。観光客向け土産屋より品揃えは少ないが同じような大きさの布が2,3割安く買える。

 

 

嫁さんの眼が輝く。カラフルな布が狭い露店内を埋め尽くしている。

布は作りがしっかりしていてテーブルクロスぐらいの大きさでも1000円いかない。薄いものなら500円に届かない。

ちゃっかり僕もリャマやインカ戦士の刺繍入り布を買う。今までとどめてきた物欲という波が我々を襲う。

 

 

買い物はなぜこんなに楽しいのだろう。

異国の文化を肌に触れ、電卓相手に値段交渉、掘り出し物を見つけて歓喜し、誰の土産にするか話し合う。しかも物価が安いときたら楽しさも倍増だ。

たまにあるきれいな店ではアルパカの高級なセーターや可愛らしいアクセサリーもある。結構な距離を歩いたが、楽しさのあまり時間を忘れて歩いた。

 

 

 

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いくら楽しくても腹は減る。

いや、楽しい時はいつも以上に腹が減る。

物価が安いのは買い物だけではない。

市場の奥の方にある定食屋の並びに至る。

薄汚れた市場の奥にあるここは天国だった。

 

 

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通りかかった我々に小魚のフライを試食させてくれたおじさん。

日本人相手の商売に長けている。試食はずるい。なんせこの小魚のフライ、びっくりするほど美味しいのだ。

おじさんの店に引きこまれ、巨大な鳥のモモが2本も入った定食を頼む。

なんとこのボリュームで15ボリ。200円位。

さっきの美味しい小魚のフライと芋と米が入ってこのお値段。

ジャパネットたかたの社長でも驚きのお値打ち価格。

ペルーもそうだったが、味はいたってシンプル。シンプル・イズ・ベストを地で行く塩コショウだけの鳥肉は臭みもなくうまいの一言しかでない。

これだけの鳥肉を一度に食べたことはない。しかも200円。ボリビア、いい国ではないか。

帰りに小魚のフライを追加で買って帰る。ビールがあれば100点なのだが。

 

 

 

 

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結局、かなりの買い物をしてしまった。

3枚。それにまさかのボリビアゲバラTシャツ。そしてボリパン。

ボリパンはボリビアパンツの略で、派手なパジャマみたいに楽なズボンである。日本人旅行者に好評なのだ。実際に履いてみたがかなり楽ちんで意外にオシャレな代物である。

これだけ買ったが4000円くらいしか使っていない。

まさにラパスは買い物天国だ。おかげさまでスリにも遭わず、無事ビールを飲みながらボリパンを履いてぐ~たらしているのであった。