ウユニ塩湖 サンセット編
2月12日
バスは3時間遅れてウユニの町についた。
夜中、とても寒かった。ダウンを着て、足の臭がするブランケットを身体に巻きつけたが、たいそう寒かった。
バスターミナルに着くとその足で鉄道駅まで行き、すぐ左手にあるツアー会社「穂高」へ。
「穂高」という割に表の看板の写真は明らかに日本のあの穂高岳とは装いが違う。
ここは日本人御用達のツアー会社で、とにかくこの「鏡張り」の時期はとてもとても繁盛している。
「鏡張り」とは、ウユニ塩湖に水が張ることで起こる自然現象でまるで湖一面が鏡のようになることをいう。
一年のうち雨季(1月~3月頃)にしか起こらない。しかも条件があり、前日までに雨が降って一面に水が張った状態で晴れかつ無風でなければきれいな鏡張りを見ることはできない。
自然の摂理で作られるその素晴らしい瞬間を垣間見るにはなかなか運がいるのだ。
そして、そんな鏡張りが好きなのは日本人くらいだという。
3度の飯より旅行が好きな白人の皆様は、逆の乾季の真っ白な塩の地平線が大好物であるとか。
古から続く天皇家の三種の神器でも鏡があるくらいだから、日本人は根っからの鏡好きでナルシストなのかもしれない。
穂高では表に張り紙が無数に貼ってある。
ウユニ塩湖ツアーはランドクルーザーを1台貸し切り、サンライズ、サンセット、星空ツアーなどに向かう。だから定員が7人までなので、7人集まればチャーター代を折半できて安く行ける。なので表の張り紙で空いている所に名前を書き込むとツアーに向かうことができるのだ。
僕らは着いて早々、その日のサンセット(15時~21時)、明くる日のサンライズ(2時~8時)ツアーに申し込んだ。どちらもすぐ人は集まり一人114ボリ(1400円位)でウユニ塩湖に行くことができる。
そのウユニ塩湖。僕はかなり気をもんでいた。
ウユニ塩湖のために1月に仕事を辞め、ウユニ塩湖のために東回りの世界一周旅行にしたのだ。まさにウユニ塩湖のために今ここにいるといっても過言ではない。
死ぬほど見たいというわけではない。しかし、雨季限定という縛りが旅の計画上どうしても引っかかった。他の地域は主に過ごしやすい季節を重点的に考えての計画であり、お祭りやイベントには参加することは殆ど無いので、ウユニ塩湖が我らの旅の特等席を勝ち得たのだった。
さらに出会った旅人に聞くと、皆3,4回は通っている。自然が相手なので仕方がないが、一回1400円を何度も打ち込むのはさすがにきつい。
ウユニ塩湖はこの1ヶ月、常に僕の頭の何処かであぐらをかいてこちらをじっと睨めつけていたのだった。
15時、風が少し強い。
ツアー会社の前に集合。
ランドクルーザーに乗り、長靴を借りてウユニ塩湖に向かう。
風が強く、山並みの方に大きな雲があったので焦燥感が沸き立つ。
同乗メンバーが良い人ばかりだったのは運が良かった。
なぜ穂高のツアーが人気があるというと、完全な「鏡張り」ツアーを企画しているからだ。白人は先ほど行ったように鏡張りには興味がなく、塩湖の遺跡なんかが好きみたいなので、ALL JAPANで行かなければ喧嘩になったりするらしい。
1時間ほど悪路に揺られ、遠くに湖が見えた。
「水が張っている!!」
ひとまず、第一条件はクリアだ。
湖というか巨大な水たまりにランドクルーザーは飛び込む。入ってすぐは多少水が深いので鏡張りは発生しない。
水平線上に蜃気楼のように浮き立つランドクルーザーの群れ。若干の風と強烈な日差し。ここがウユニ塩湖だ。
なぜ鏡張りができるかというと、この塩湖の成り立ちが大いに影響している。
首絞め強盗に何百回あうくらい気が遠くなるほどの昔、湖だったこの地域が干上がることで形成されたウユニ塩湖は世界一まっ平らな場所の一つなのだ。しかも、流れ出る川もないので雨が降ればまっ平らに水が張る。
そんな塩湖の上を、なぜかかなりの安全運転の運ちゃんを急かしながら、ついに我々はやってきた。
少し風はあるが、ここはまさに鏡の上であった。
テンションという言葉は胸糞悪くなるくらい大嫌いだが、この時の僕たちはテンションMAXだった。
※写真-同じツアーのお兄さんが神になった瞬間
ひと通り遊んだあと、さらに奥へ。
夕日がきれいに見えるスポットへ向かう。
なぜ日本人だけがこの光景で興奮するのかというより、なぜ他の人種は興味が無いのかが気になる。
どれだけ日本人が鏡張り好きかというと、ウユニのツアー会社の客引きたちが「カガミバ~リ、カガミバ~リ!」と言ってくるくらい鏡張り好きなのだ。
よくブログ等で集合おもしろ写真を撮っているのを見かける。
「みんな仲が良いなあ。」なんて思っていたが、あれは運転手のサービスだった。
我らが運転手の安全運転がモットーのリカルドは、「ジャンプ!フラミンゴ!ワンピース!」とこちらにいろいろなポーズを要求してくる。
篠山紀信ばりにポーズを要求し、全員分のカメラで撮りまくるリカルド。ありがたいのだが、この高所でフラミンゴポーズをキープするのはアスリート並の筋力と心肺機能を要する。
夕日が沈む。
感動というより、自然の偉大さをあらためて見せつけられたような感覚だった。
360度をただただ何もない景色に囲まれていると、世界の真ん中にいるような幻想を抱く。
夕日すら反射するウユニ塩湖は太陽を飲み込み、辺りをオレンジ色に染める。
遠近感を奪い取られた人間は、その景色をなんと表現してよいか言葉が出てこないだろう。
言葉とは意識と思考の根源である。まさにこの景色は人間ごときが許容量をはるかに超えた世界だった。
人の住めないこの場所で地球の神秘を感じていた僕たちは、沈む行く夕日の最後の淡い光がか細くもゆらゆらと燃えるその刹那まで眺めながら言った・・・
「さ、さむい!!!」
まっ平らなウユニ塩湖は太陽が就労時間をやっと終えた瞬間、猛烈な寒さが襲う。
一瞬で訪れた闇に、人は震えることしかできない。
塩まみれの愛機OM-Dちゃんをカバンしまい込む。
闇は雷を呼び起こし、目ではっきり見ることができる稲光がそこら中に落ちる。
闇は遊び疲れと空腹と寒さをよこした。
揺れるランドクルーザーに身を委ね、せっかくの絶景の余韻よりも晩メシに何を食うかしか頭にない僕は空きっ腹に水を流しこみながら街の灯を目指した。
※日の出ツアーはこちらから。