パタゴニアと2人の男
2月28日
バスは無人の荒野を行く。
僕は財布の底が抜けたダメージをまだひきずっていた。
「・・・だってボリビアなら1万円あったらチチカカ湖買えちゃうぜ。」
「・・・そうね。ペルーで1万円あったらナスカに赤木キャプテンの似顔絵書けちゃうわネ。」
と、夫婦で世迷い言をパクパクしながらパタゴニアをめざした。
某有名シーシェパードのパトロンな「あの」登山メーカーの方が有名だが、こちらが本家のパタゴニア。
南米の南端を貫くパタゴニアは、世界一の強風が吹き荒れる最果ての地である。
人類がアフリカをスタートし、何万年もかけて辿り着いた終着地でもある。
アンデス山地にぶち当たる偏西風によって生まれた強風が大地を痛めつけ、人や生き物を寄せ付けない厳しい自然をパタゴニアにもたらしている。
そんな荒々しいパタゴニアだが、なぜパタゴニアという名前かというと何となくカワユイ理由なのだ。
初めて旧大陸からここを訪れたマゼラン(世界初の世界一周旅行者・・・の途中まで上司だった人)が、この地の先住民を目にして言い放った。
「ちょ、ちょ、見てみて!あいつら足超デカくねえ!!」
「足=パタ」なので大足族が住むところというニュアンスで「パタゴニア」となったらしい【諸説あり】
パタゴン族と名付けられた哀れな先住民は、ただ毛皮のブーツを履いていただけなのに・・・
パタゴニアはその後、「巨人が住む国」だとか「最果ての地」などなどアドベンチャーな噂や伝説がつけられていった。
なぜリオのカーニバル真っ最中に、そんなところに僕が行こうかと思ったかというとここは憧れの地だったからだ。
ここは人類の長い長い旅の終着駅。グーグルマップもGPSもない時代に、人類の祖先達はなぜこんな所まで来たのだろう?
そんなロマンに惹かれたのも、もちろんある
そして多分彼らもそんなロマンに惹かれたであろう男たちがここを訪れている。
再登場チェ・ゲバラ。アルゼンチン人だった彼は若き頃アルゼンチン中を旅したのだ。彼はその後、南米を縦断し、キューバ革命を成功させ、南米で死んだ。
パタゴニアはゲバラというカリスマを産んだ国にある若き彼が旅したところなのだ。
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そしてブルース・チャトウィン。
イギリス生まれの紀行作家(と言われるのは嫌いだったらしい)
旅に生きた彼の名を最初に世界に知らしめた著書の題名こそ「パタゴニア」
パタゴニアへモレスキンを片手に旅だった彼の旅行記は、まるでそこにいるかのような感覚と、そのままどこか異世界に連れて行かれそうな不気味さを持つ。
若くして死んだブルース・チャトウィンが見たパタゴニアに僕は強く惹かれた。
2人の偉大な旅行者が歩いたパタゴニアに僕たちはやっと訪れることができたのだ。
目指すエル・チャルテンまで半分くらいのところから、いかにもパタゴニアな荒野が広がっていた。
大地にはほとんど植物はなく、あっても低く短く折れ曲がっている。嵐の大地といわれるその由縁がそこにあった。
リャマより小さなグアナコという生き物が、パタゴニアの数少ない住人だ。
荒野の中、ただ一本だけ走る道を走るバスをつぶらな瞳で覗きこんでいる。
道の縁で肋と腐肉を晒すグアナコの死体がパタゴニアの暗い青の沈む大地に妙に溶け込んでいた。
エル・チャルテンにはフィッツロイという山がある。
3400mくらいの高さではあるが、世界的に有名な山だ。
登山メーカーのpatagonia。あのロゴにある凸凹。あれは模様ではなくフィッツロイの山影である。
世界に何個もある「世界一美しい山」の一つで、山好きには憧れの聖地でもある。
パタゴニアに来た理由は山もあった。フィッツロイ、そしてチリ側のパイネ国立公園。そこには素晴らしい景色と孤高の山が待ち構えているのだ。
そんなフィッツロイと早く会いたい焦りを抱え、ゲバラの改造バイクが走りチャトウィンが書き描いたパタゴニアを進んでいくのであった。
夜遅くエル・チャルテンについた。
24時間ぶりの大地が憧れのパタゴニアであるから感動する。
しかし、ただいまパタゴニアは短い短い夏シーズン。山や湖に囲まれたパタゴニアはアウトドア天国なので目下ハイシーズンまっさかり。
ホテルも満室だ。もちろんプーノのあの事件から予約というものはしていないので何件か周る。
地球の歩き方先生最安値のピオネロス・デル・バージェというユースホテルは、地球の歩き方先生ではドミトリー80~100ペソだったが、120ペソになっていた。
高いなあ~というリアクションも、「じゃあ他行かんかいな」という感じだった。夜でも町には人が溢れ、白人がビール片手に大賑わいだ。
明日はいよいよフィッツロイ。楽しみでなかなか寝付けなかった。