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パイネ国立公園トレッキング その3

3月11日(5日目)

 

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Cuernesキャンプサイトは今日も強風と雨に滅多打ちにされている。

寒いのなんの。たまらない。

ここから先の予定として、次のItalianoキャンプサイト先にあるミラドルが問題になる。

パイネ最深部まで登り行くこのミラドルはItalianoキャンプサイトから3時間ほど登るのだ。

往復5時間と見ると半日潰れてしまう。

今日中に2時間半ほどのItalianoについて、テント設営後すぐに登っていけば今後の予定が楽になる。

しかしこの雨がなかなか止まず、結局またずぶ濡れのテントをしまい込み、Italianoを目指した。

 

 

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景色は良いのだが風があまりにも強い。

降りしきる雨が強さを増していく。

 

 

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ずぶ濡れになりながらも2時間半でItalianoキャンプサイトにたどり着く。

フリーキャンプサイトなのだが、一応登録を済まさなければならない。

森の中にあるので風や雨が凌げるので幸いだ。空気も良い。

しかしここのキャンプサイト

ネズミが出るらしい。かなり凶暴でテントなど簡単に穴を開けてしまうらしい。

なのでここのキャンプサイト利用者は食べ物はしっかり袋に入れてバックパックにしまい、生ごみは木に吊るさなければならない。

 

 

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Italianoからミラドルまで一気に登るわけだが、なんと14時にミラドル行きのゲートが閉まるらしい。

急いで昇り始めるも恐ろしい強風と大雨に見舞われる。

引き返してくる人々。氷河のすぐ脇の岩場は雨と風と寒さで人を寄せ付けない。

30分ほど登ったがあえなく下山。

 

 

ゴアテックスレインジャケットをものともしない雨で身体はビチョビチョ。

4人で震えながらMUKAストーブの火で服を乾かす。

火力にものをいわせて暖を取る。

 

 

この日は結局雨も止まなかった。だいぶ体を冷やしてしまったのでたっぷり夕食をとって早めに寝た。

 

 

Cuernes(10時30分)→Italiano(13時) 2時間30分 5,5㎞

 

 

3月12日(6日目)

 

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久しぶりに雨は降っていなかった。

曇り空でも雨がないだけでかなり嬉しい。

早起きしてミラドルへ向かった。

 

 

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序盤は岩場だ。

少し迷いやすい岩場のコースにはルートが小川になっているところも多く、滑りやすいので注意が必要だ。

30分ほどで氷河が見えてくる。

フランシス谷の氷河は規模は小さいが本当に間近で見られるので圧巻の景色だ。

 

 

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谷を歩くといえばもうお馴染みの寒さを運ぶ強風である。

岩場で全身に寒風を浴び、木々の中で休むという行程を何度も繰り返しながら少しずつ登っていく。

序盤の氷河以降は見通しが悪く、同じような登道がずっと続くのでかなりしんどい思いをした。

 

 

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2時間ほど歩くとやっと広い場所に出る。

先程からチラチラ見えていたセロトーレなどの山容がくっきりと見ることができる。

 

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初日に見たセロトーレの後ろ姿が見える。

 

 

 

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巨大な山に囲まれた広場は、見たこともないくらい透き通るような水が流れ、こんな場所なのに小鳥の楽園のようになっている。

小川の流れる音と小鳥のさえずり、そして風の音。

こんな場所を桃源郷というのだろうか。

寒さえ無ければ寝っ転がりたくなるような美しい空間である。

 

 

 

 

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さらに行くと白い骨のような乾いた木々が森のように生えている。

ここにも清流が流れ、山はいっそう近く見える。

 

 

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白い木々の隙間より見える青い山々はとても美しかった。

白と青が織りなす景色を掻い潜り、最後の岩場を登る。

 

 

 

 

 

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3時間かかり、ついにミラドルへ。

まさにパイネの中の展望台といった景色で、巨大な山々に囲まれた絶好の場所である。

風はさらに強さを増し、体感温度はマイナスに近い。

雪と氷の頂より吹き下ろす風にはパイネの厳しさがある。

まさにここから風が生まれているのではないかと思うような景色だ。

 

 

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やっと辿り着いた景色を岩に隠れながら堪能する。

とにかく寒いのだ。

雲がたえず姿を変え、うねるように山の合間を抜けて降りてくる。

太陽はその隙間から出たり隠れたりを繰り返し、セロトーレを際だたせるのであった。

 

 

 

 

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ゆっくりしてはいられない。

ミラドルから降り、さらに次のキャンプサイトを目指さなければならないのだ。

急ぎ下山。3時間もかけて登った道を1時間半で急ぎ下りる。

13時半にItalianoに辿り着き、チョコやクラッカーを腹にねじ込み、バックパックを背負って歩き出した。

 

 

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ここ2日の雨での遅延停滞で食料が心もとなくなっていた。

一応予備を入れて8日分はあったのだが、想像以上のきつさと主力のインスタントラーメンの味気なさで、あと2日分も持ちそうになかった。

5時間近くのミラドル往復直後、今度はPaine Grandeキャンプサイトまでの7,5㎞の道を行く。

 

 

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この道から、風が最早台風を越え、未だかつて感じたことのないほど強烈な威力をもつ暴風となった。

パイネグランデの山とグレイ湖から吹き下ろされる風は、風速60mにも達するのだ。

そんな中歩くのは湖横の峠道。

 

 

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ここは数年前の火事で焼け野原になった場所で、燃えカスのような木の残骸が剣山のように立っているだけであった。風が強すぎるので高い木々も育たないため、遮蔽物ほぼなしの中を行くのだった。

 

 

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生まれて初めて風で転んだ。

生まれて初めて踏ん張りきれなかった。

自然の恐ろしさを全身に浴びる。

 

 

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木は曲がっていた。

そこらの雑草も曲がっていた。

 

 

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毎日毎日この風を受けて育ったために曲がってしまったのだ。

杖で何とか姿勢を保ちつつ、よじるように進む。

 

 

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何度か小さなピークを超え、広い湖に出る。

パイネグランデのお膝元、なんとか進み続け遠くにキャンプサイトを見つけた。

 

 

 

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Paine Grandeキャンプサイトに16時半やっとたどり着いた。

着いて早々目にしたものはひしゃげたテントや転がっていくテント。

こんな風が強い場所にもかかわらず、なぜか原っぱの真ん中にあるのだ。

6500ペソ払い、この強風の中テントを立てるという暴挙に出る。

 

 

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我がテント、エアライズくんはみぞおちに膝蹴りでも喰らったかのように、身体をくの字に曲げる。

植木のような硬い小さな木の後ろに立てたは良いものの、テントってこんなに曲がっても壊れないんだなあと感心するくらいぐにゃぐにゃ動き回る。

嫁をテント内に放り込んで、夢中でペグを打ちまくる。

ペグは重石ごと飛び跳ね、テント内からは嫁の悲鳴が。

何とも恐ろしい光景である。

横のおじさんのノースフェイスのテントはポールが見事に折れていた。

キャンプサイトに響く阿鼻叫喚。

 

 

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なんとかテントを立て、もはや避難小屋になっている食事スペースへ。

結局テント設営にえらい時間と最後のエネルギーを使い込んだせいで、グレイ湖方面にはいけなかった。

なので僕らはえらい変則的なコースを歩いたことになる。

 

 

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この日は強風でテントがよじれまわり、僕らの身体を右へ左へと揺さぶり続けたのでほとんど眠ることができなかった。

 

Italiano(8時)→Mirador(11時)→Italiano(13時半)→PaineGrande(16時半) 7,5時間

15㎞+7,5㎞

 

 

3月13日(7日目)

 

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最後の夜はほぼ眠ることができない中、7時半に出発だ。

なぜこんなに早いかというと、今から向かうゴールであるAdmin(公園管理局)発のバスが13時半と18時しかないからだ。

コースタイムは5時間。18時に乗ればゆっくりできるのだが、我々は13時のバス以外選択肢はなかった。

とにかく腹が減った。餓え渇いた。最終夜、残りのインスタントラーメンをかきこんだもののさっぱり腹は満たされない。

3日目くらいからまるで怪しい宗教のように「アロース~ショウガヤキ~セルベサ~アロース~ショウガヤキ~セルベサ~」と唱えながら歩いていた。

食事制限が限界を超えていた。アロースとはスペイン語で米、ショウガヤキは台湾チームに出発前の宴で大好評だった嫁の得意料理の生姜焼き、セルベサはビールのことだ。

13時のバスに乗れれば夕方にはプエルトナタレスまで帰れる。そのままスーパーに駆け込めば19時には「宴」が催せるのだ。

 

 

美しいパイネの景色を楽しみながらのトレッキングなど最早我々には関係ない。

極限の精神的飢餓状態で発狂寸前のインスタントラーメン軍団は、白き純白の米と血の滴るような肉と黄金に輝く白き冠を戴いたビールのことしか頭になかった。

哀れなるかな飢えた4人の東洋人はやっとスカスカになったバックパックをスカスカの身体に背負い込ませ、最後の血を振り絞りながら豪風のパイネの道を歩き出した。

 

 

昨日の風は一向に収まることはなく、我々を峠から湖に落とそうとびゅんびゅん吹き荒れる。

北風と太陽という話を思い出しながら、フードを目深にかぶり無言で風の中を行く。

何度も言うが、こんなに風が強いとわかっているはずなのに、崖っぷちに道を作り、野っ原にキャンプサイトを作るチリ人の遊心には拍手を送りたい。

 

 

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Adminまでの道はほんの序盤だけ登りがあるが、あとは平坦な道が延々と天竺までつながってるんじゃないかと思うくらい続く。

コースタイム5時間で17.5㎞なのだから、ちょっとトレッキングをかじった人なら気持ちがわかってくれるだろう。この辛さが。

 

 

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川沿いの道を抜けると地平線の果てまで続く野原を延々と歩く。

辛い。

辛すぎる。

風が強すぎるのだ。

幸い、本当に幸い雨は降っていなかったのだが、台風以上の風の中を歩く。

向かい風は序盤だけであとは追い風である。

 

 

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なら楽かとおもいきや、よくバラエティ番組である巨大扇風機に立ち向かう芸人のような体の張り方なのだ。絶えず背中から右左に押し続け、時たま吹く突風で道からふっ飛ばされる。

強風にかき消され声も届かない。何度も小突かれ、何度もミドルキックを放つパイネの豪風に苛つきながらも何もできない虚しさが募る。

 

 

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この間、記憶が殆ど無い。

頭を空っぽにしてただこの風を受け入れながらでないと、おそらく気が狂っていただろう。

自然とはそもそもそういうものであったのだろう。

昔の人は雨や雷や火事やオヤジをただただ受け入れていたに違いない。

 

 

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12時半、やっと車が見えた。

久しぶりの排気ガスは良い匂いに感じた。

砂利道を転びながら行くとついにゴールのAdminの建物が!!

 

 

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感動・・・・はない。

「アロース!!ショウガヤキ!!セルベサ!!!」

1周間にも及ぶトレッキングは僕達に強いメッセージを与えてくれた。

「食えるときに食っとけよ BYパイネ」

 

 

前にも書いたが、長らく山中にいると普段の何気ないひと時が本当に幸せだと感じる。

いつもひもじい、貧しいと嘆いているが、それが何とも贅沢なひとときだったのだ。

水も食料もシャワーも柔らかいベッドもすべてがありがたく感じる山の中の我々であった。

 

 

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結局、バスで爆睡後、ホテルに帰りすぐさまスーパーへ。

嫁さんが失神しそうになりながらも何とか生姜焼きスペシャルを作り、皆でビールとともに砂漠のような五臓六腑に染み渡させる。

笑顔と血の気が戻った我々は、そこで初めてパイネトレッキングの達成感を味わうのであった。

「もう2度と行きたくねえ」と・・・

 

そしてまた語り合う。

「1年後なら挑戦していいかな。パイネ一周」

そんなことを言いながら、ふかふかベッドで眠りにつく。

今の僕は加山雄三よりも「幸せだな~」

 

PaineGrande(7時半)→Admil(12時30分) 5時間 17.5㎞

 

 

総距離99.6㎞ 

総トレッキング時間 37時間