激闘インドビザ

エピソードⅠ インド帝国の逆襲

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話を戻すと1ヶ月前のトルコはイスタンブール
我々はブルガリアからの夜行バスで朝方イスタンブールにやってきた。
寝不足とバスでの苦しい態勢で疲労困憊。
だがその足で向かうはかの悪名高きインド領事館。
インド人代表として選出されるだけある怠慢さで世界的に有名なインドの先兵たちだ。


ここでまずインドビザについて。
インドはビザがなければ入国できない。ビザは2種類。
事前に所得する観光ビザと空港で手続きをするアライバルビザ。
観光ビザは20ドルで6ヶ月滞在可、アライバルビザは60ドルで1ヶ月滞在可。これは観光ビザを選ぶしかあるまい。
しかしこの観光ビザ。死ぬほど七面倒臭い。


まずオンライン申請が必要だ。オンライン上で名前や住所などを書き込む。だけなら良いのだが質問がかなり多い。家族にパキスタン人はいるかとか、お前の嫁はパキスタン人じゃなかろうなとか、かつてパキスタンに行ったことあるんじゃねえだろうなとか、パキスタンパキスタン、やたらうるさいスタン。
しかもしかもこのオンライン。すぐに落ちる。クラッシュする。僕はスペランカーと名づけた。
何度も何度もやり直しだ。IEでやったほうが良いらしいが、とにかくクラッシュバンディクーだ。
短気な僕はこれだけでファミコンぶん投げるくらいの怒りで血管が切れそうだ。
出発直前でやり始めたのが悪かった。結局オンライン申請できずにインド領事館に向かった。
なぜなら、ぶっつけでも行ける可能性があるという情報があったからだ。
奇しくも月曜日。もし今日うまく行けば金曜日にはビザ発行だ。
地下鉄を乗り継いでギリギリ間に合ったインド領事館。そこで言われたのはやはりオンライン申請しろということ・・・ではなかった!!


「あなた達、日本人?日本人はアライバルビザしか無理よ」

 

「ええ!そんなこと初耳ですけど」
「つい最近変わったのよ」
オンライン申請のことで文句言われるかと思っていたのに拍子抜けだ。なんだ、ちゃんと調べておけばよかった・・・・わけない!!

 

まさかの嘘をつかれた。


受付の姉ちゃんは終了時間ギリギリだったからか面倒臭かったからか、思いっきり嘘をひねり出した。

 

 


エピソードⅡ インドペンデンス・デイ

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くそ、あの姉ちゃんめ。
我々は結局オンライン申請と戦った。
長い戦いだった。作っては壊され作っては壊される。長篠の戦いでの武田騎馬隊の如く擦り切れていく精神。
やっとのことで討ち果たす。二人分で四時間かかった。四時間もあれば七人の侍が一気に見れる。
写真など必要な書類も集めていざ行かんは魔城インド領事館。
また地下鉄を乗り継ぎたどり着きてまっさきに見えたるは、この前の姉ちゃんではないか。嫌な予感しかしない。暫し待つ。横ではハゲたオヤジが食って掛かるほど怒鳴っている。見事に殺伐としている。順番が来る。

 

「書類も持ってきましたか?」
「ほらご覧!こちとら不備はない!さあ早くビザの用意を・・・」
「ん?写真アップロードしてませんなこりゃ」
「写真アップロード?これは写真持ってくるなら不要って書いてあるけど」
「いや要ります」
「・・・そんなこと言わずに。どうせ写真貼るんだし」
姉ちゃんは言い放った。

「あなた達、日本人よね。アライバルビザ取りなさい」

 

「いやいや・・・」


「日本人はアライバルビザしか取れないのよ」

 

あまりの怒りでそのあと一週間ほど謎の頭痛に襲われ続けたのは言うまでもない。
しかも台灣の友人夫婦はネパールのインド領事館で写真アップロードなしで一発OKだったという。
おそらくイスタンブールのインド領事館は、仕事を増やしたくないから面倒な奴はアライバルビザに回してやろうという魂胆のようだ。
インドは1ヶ月前から始まっていたのだ。
ということでもうオンライン申請もインド大使館も行きたくないのでアライバルビザにすることに。
向こうの言いなりになり40ドルも多く払い1ヶ月しかいれないアライバルビザを。

 

 

 

エピソードⅢ インドより愛をこめて

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インド・アライバルビザ
というわけで精神的に完全敗北したけれどもインドには行きたいので、アライバルビザ奪取を試みる。
アライバルビザはデリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイの空港でしか取得できない。
しかもアライバルビザ手続き可能な国が、周辺アジア国とフィンランドルクセンブルクなどと限られている。インドにたくさん来そうなアメリカやフランスなどの国が除外されているのがこれまたよくわからない。


そんなアライバルビザだが、「追い返された」なんて物騒な話をよく聞く。
必要な書類などを持っていなかったり、イミグレ(イミグレーション:入国管理局)の職員の気分なんかで元きた道を帰らされるという。
さらに料金の支払の際に、手数料だとか言って5ドルくらいを勝手にちょろまかしたりもするという黒すぎる噂がある。

イミグレの旅行者ほど立場の弱い生き物はいないので、完全に足元を見ているのだ。
まさにインドといったところか。

 

必要なものはパスポート用写真出国航空券の証明だ。
さらにインドに一度入国したら6ヶ月間再入国不可なので、それも要チェックだ。なぜかスリランカ出国の際に、スリランカ航空のスタッフが2年前のインド入国スタンプを指さして「お前は無理だ」とかいわれた。そんなこといったらインドは人生で一回しか入国できないんですけど・・・
アライバルビザのことはまだよく知られていないようだ。


緊張しながらも、コロンボから1時間半のフライトでチェンナイにたどり着く。
ああ、帰れとか言われたらどうしよう。
もし帰れと言われた時の対処法を頭で何度もイメージしながら、その都度憂鬱になる。


飛行機から降りムワッとした蒸し暑さを感じながら歩いて行くと、イミグレの手前に「アライバルビザ」の看板があった。
ドキドキしながらその部屋に入っていく。
そこには目付きの鋭いヒゲオヤジがいた。
僕がアライバルビザの申請を頼むと、ヒゲオヤジは途端に面倒くさそうな顔をした。

「てめえ、税金で飯食ってんだから自分の仕事くらいちゃんとしやがれ!!」なんて顔をしてはいけない。

イミグレの基本は笑顔だ。

笑顔をゴリ押しして温厚な日本人を演じきるしかない。

「アライバルビザ?日本人っていけるんだったっけ」
そういってヒゲオヤジは壁に貼ってあるA4用紙をみた。そこにはアライバルビザ取得可能な国が書いてある。その紙には最後に汚い手描きで韓国が書き足されていた。なんて適当なのだ。


「この用紙書いて」
ヒゲオヤジが渡した印刷失敗したような紙には、薄くて見難い質問欄がぎっちり詰まっている。
ちなみに普通に会話しているように書いているが、インド人の英語はかなり聞き取りにくい。イングリッシュならぬシングリッシュと呼ばれるその巻き舌英語は、何度聞き返してもさっぱりわからない時がある。
ヒゲオヤジは忙しいらしく何度も電話に出たり部下を呼んだりで一向にこちらを構ってくれない。聞きたいことがあっても、待て待てといいながらどこかに行ってしまう。
質問欄はかなり多く、名前や住所や電話番号の他に両親の名前やインドでの宿泊地とその住所と電話番号などなど非常に面倒くさい。
僕らは小難しい英単語がよくわからないのでアプリで翻訳しながらせっせと質問欄を埋めていると、いきなりやってきたおばさんが怒り出す。

 

このおばさん、かなり高圧的で怒りまくるのだが、その口から発する英語は訛りがひどすぎてさっぱり聞き取れない。
「ギャーギャーギャー」
「え?何ですか?」
「あんたに話してんじゃないわよ!!」
同僚にヒンディー語で話しかけたのが英語かと思ってしまうくらい、何を言ってるかさっぱりだ。
そんな時も笑顔だ。笑顔を崩さない。笑顔の薄皮をぺらっとめくればシヴァ神もびっくりな憤怒の鬼顔だが、そんなことをしてはならない。入国ゲートさえくぐっちまえばこっちのものだ。
対応するスタッフで違うと思うが、このおばさんめちゃくちゃ厳しい。
宿泊するホテルの住所や電話番号が合っているかと確認までしてくる。
僕らは予約すらしていない適当なホテルの名前を書いていたので内心ヒヤヒヤしたが、さすがに予約の確認まではしなかった。
15分くらいかかって何とか用紙を書いた。

 

 

次はビザ代金支払い。
支払いはUSドルじゃないとダメとか、インドルピーに両替しなきゃダメとか情報が錯綜している。
一応一人60USドルずつ持ってはいたが、できるだけ虎の子のUSドルちゃんは使いたくなかった。
アジアでは入国時に金を払ってビザ取得というパターンが多いのだが、そのほとんどがUSドル。南米で思った以上に使ってしまってUSドルが心もとないので、できればATMでインドルピーを降ろして払いたかった。
「あのATMでルピー降ろさせてもらいたいんですけど・・・」
ダメ元で聞いてみた。
「は?カードで支払えばいいじゃん」
え?カード支払いあるの?現金だけって聞いてたけど。
するとヒゲオヤジはカードリーダーをかっこよく突き出した。
一瞬、ジョージ・クルーニーに見えた。
しかしインドでカード使うのが少し怖いが、まあジョージ・クルーニーを信じよう。
一人3900ルピー(6100円)
悪質なレートをふっかけられるかと思ったが、意外に適正だった。
しかも小遣い稼ぎもしてこない。

 

これで何とかアライバルビザが降りた。
全部で30分くらいかかった。長かった。えらく消耗した。
やっとの思いで入国。
ふらふらと荷物を取りにいくと僕らのバックだけドサッと置いてある。
そしてバックはビシャビシャ
そういえばスリランカ出る時、大雨だったなあ。
もう怒る気力もなく、引きつった笑顔のままインドの地に降り立つ。
ついに来た修羅の国インド。
果たして何があってもおかしくないインドから無事に出国できるのでしょうか?