病牀六尺リシケーシュ

9月10日

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自業自得などえらい目にあってヘトヘトな中、朝5時半に目が覚めた。
列車はハリドワールにたどり着いていた。ホームに降り立つと、白いもやをかすかに感じた。すこし肌寒い。寒いっていう感覚はかなり久しぶりだ。
ホームで嫁さんたちを待つ。さすがエアコンVIP席。かなり快適だったようだ。
「超がつくお金持ちばっかりで、みんなすごい優しかったよ~」


エアコン席は寝台席の2倍から3倍。エアコン席でもさらにハイクラスなワンルーム席になると5倍どころではない。嫁さんの隣の席は、英字新聞を熱心に読み込むビジネスマンだったとか。

 

やっとこさハリドワールに着いたものの、目指すリシケーシュはまだもう少し先なのだ。
何て遠いんだリシケーシュ!天竺を目指した玄奘の気持ちが痛くわかる。あ、すでにここ天竺か。
しかし、僕の体はすでに限界を突破した新境地の疲労で完全なるグロッキー状態だった。インドの疲労は日本で感じるそれとは大きく違う。日本では肉体的精神的疲労だけだが、こちとら襲いかかる客引きオヤジに、極限の衛生状況、突進してくる牛、明らかにイッている犬、チケット売り場を占拠する詐欺師たち、無限に続く混雑、耳を食いちぎるクラクション、飛び交う排気ガスと痰、そして常に後ろにいるかもしれない泥棒さんの恐怖・・・

 

五臓六腑が共倒れの状況である。なんせ唯一の回復アイテムである牛肉とビールまで無いのだから。「ハードだぜインド!」そう言って飛び散る汗は隣のオヤジの痰かもしれない・・・

リシケーシュまでもまた面倒で、リシケーシュまでのバスに乗り、バスセンターで乗り合いリキシャを拾って行かなければならない。1時間くらいの行程だが、もう僕は台灣の友人に全部任せっきりで彼らの地縛霊のようによそよそと付いて行くしか無かった。

 

 

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リシケーシュに辿り着いた。腰を上げてから3日かかった。7時間で着くはずだったのに3日だ。壮絶な道のりだった。4人中3人が体の何処かしらに何かを抱えていた。僕は寺の鐘突き係を売れないパンクロッカーに任せたかのようなイカれた頭痛、マザーテレサが見ても引くような湧き上がる青い鼻水、グリーンマイルを見てもちっとも泣かなかったのに流れ出る大粒の涙。こりゃインド風邪ですわ。

 

ちなみに僕は超がつくくらいの健康優良児である。いや、健康優良不良少年でもある。
3年に1回くらいしか咳が出ない。風邪のひき始めを少しでも感じると、強大な妄想力・・・もとい精神力で看破する。高校の時だってテストの前日に38°の熱に襲われたが「200回腕立て伏せしたら治る」と自己暗示をかけて、朦朧とする意識の中での腕立て伏せにより見事討ち果たした(テストには完敗)

人生でも盲腸と1回のインフルエンザにしか不覚を取ってない。母親に唯一褒められたことは「医療費がかからなくて良い」だった。
そんな鉄壁の僕だが、それは世界に出ても同じ。今のところ、モロッコで南京虫に噛まれてちょっと熱が出たくらいで、腹も下していない。

 

 

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しかし、しかしだ。上には上がいる。インドだ。
我が鉄壁の健康要塞は、インドの手にかかれば飴細工のように捻り潰された。
前回のインド旅行でもやはり3週目で下痢の無限地獄に落ちた。
今回は食事を十分気をつけたので下痢はなかったが、頭をやられた。「腹隠して頭隠さず」である。ゴルゴ13のようなインドの前では、何をしてもダメなのかもしれない。
※大体の日本人は何かしら患うが、今までたった一人だけインドに1ヶ月もいて一切何も起こらなかったという超人に出会ったことがある。普通の大学生だったが、日本の医学の発展のためにも彼を即刻解剖検査してみたほうが良い。


初日は満場一致でホテルに閉じこもった。久しぶりに心置きなく眠った。
リシケーシュには多くの外国人が訪れる。なんせ40年位前にビートルズ御一行様まで訪れたヨガとヒッピーの聖地だから。
リシケーシュの市街地から川上に上がっていくと、2つの大きな橋がある。奥の橋の近くはヨガ教室やゲストハウスやレストランが立ち並ぶ。ここは外国人ばかりなので、レストランなどの相場も高く、インド人観光客は昼くらいしか訪れない。狭い一角なので車通りも少なく、インドにしてはものすごく静かな場所なのだ。


最後はリシケーシュというのは当初の計画通りだった。おそらく3週間もいれば疲労が溜まってくる頃だから、リシケーシュはリフレッシュに最適だと踏んでいたのだった。当初は来る予定もなかった台灣の友人夫婦まで連れてきてしまったが、なんといっても落ち着くのでみんな大満足だった。

 

 

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しかし、インド風邪は長引く。
抗生剤もなかなか効かない。夕方に発作的にぶり返す。最初の3日はほとんど食事以外はベッドで寝ていた。薬は効いてはいたが、やはり疲労がこびりついているようだ。
4日目くらいからやっと辺りを散策できるようになった。

 

 

黒いビーチ

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リシケーシュには黒いビーチと呼ばれる沐浴場がある。

修験者が一心不乱に祈りながら沐浴する横で、観光客が水遊びしたりしている。

聖なるガンジス川は相変わらず奥が深い。

でもはしゃぎすぎた金持ちインド人グループが、半裸のおっさんに追い掛け回されたりしていた。

 

 

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オサレなカフェ

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リシケーシュにはオサレなお洒落なカフェがたくさんある。外国人向けのメニューが豊富なので、世界中から集まった観光客で賑わう。

ガンジス川をゆっくり眺めながら、冷たいラッシーを飲む。ああ、インドでこんなオサレな場所があるなんて・・・

 

 

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リシケーシュは町全体が完全なるベジタリアン。卵やチーズはあるが、一切の肉類とアルコールがない。僕には地獄のような場所だが、病床の身では逆に良かったかもしれない。
始めてのベジタリアン生活1周間であったが、乳製品を取っていれば思っていたよりきつくはなかった。が、ほとんど寝たきり生活だったのでそう思えるのかもしれない。これで仕事をするとなると、かなりキツイと思う。仕事終わりのビールがないのはねえ(そっちか!)

 


ヨガ

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リシケーシュに来たならば、ヨガをしないことにはいかないだろう。
もうそこら中にヨガ教室があるリシケーシュ。アシュラムといってヨガ教室とゲストハウスがセットになっているところまである。そこでは朝晩のヨガとベジタリアン生活という聖者のような日々が送れるとか。他にも2週間口を利かないヨガとかもあるらしい。なんて暇なんだ!

 

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初ヨガした結果、ヨガをナメまくっていたことに気付かされた。体で。
2時間200ルピー(350円くらい)とかなり安いので見学気分で飛び込んだが、これがきつい。
ヨガはのんびり体操するようなものだと決めてかかっていたが、かなり筋肉を使う。なぜなら下手だからだ。うまい人はしっかりと体幹を使えるので労なく美しいラインを作ることができる。僕らといったらぎこちなく体がぶらつき、そして圧倒的に体が固い。無理して真っ直ぐにしようとすると、余計な力が入ってまた崩れる。
コツは体の芯を感じることだ。先生の動きは無駄がない。何度か教えてもらいながらやってみると、さっきよりずっと前に手が伸びたり、後ろに大きく反れたりする。
2時間もやればへとへとになった。

 

 

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嫁さんたちは次の日もヨガ教室に向かった。
残された僕らは筋肉痛を感じながら、カフェでチャイをすするのであった。

 

 

 

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リシケーシュはとても静かなところであった。
景色も素晴らしく、レストランやカフェがかなり充実している。
ヨガをしなくても、ただのんびり流れる川を眺めているだけでも心が洗われるようだ。
本当なら北インドをもっと旅してみようかとも思っていたが、現在も続く北西部の豪雨やアルカイダがやってきたなんて物騒な話もあったので、リシケーシュでのんべんだらり過ごしたのであった。
そしてせっかく清めた体を、戦闘都市デリーに向けなければならない。そう、ネパールに飛ばなければならないのだ。

※写真の黒いオーパーツシヴァ神を祀る「男根」というやつである。インド中にこの男根がニョキニョキしている。