結局ライカM3を買ったのだがそこに行き着くまでの自問自答を公開する
このご時世にライカM3を購入したのであるが、始めに言っておこう。
『愚か者』であると!
このデジタル全盛期に、「完全機械式シャッター・露出計非搭載・フィルム仕様」のカメラにウン十万円も出すのは金持ちの暇つぶし以外は到底理解できまい。
しかし、ライカM3が今、手元にある。要もなくファインダーを覗き、フィルムを入れずにひたすらレバーを上げてはシャッターボタンを押して感触と音を脳にやんわりと置くように楽しんでいる。
これが「ライカ沼」である。無数の選ばれし人間とその家庭を破壊し、薀蓄を聞かされてため息をつく奥様方の悲哀を込めて、行けライカ!忌まわしき記憶と共に・・・
ということで、アマチュア写真家レベルですらない庶民の既婚子持ち男性Aが物欲に負けてライカM3購入に至った全行程を書きしたためておく。紆余曲折毀誉褒貶傍若無人なライカ道で苦しむ様を長々と記録しておいた。
これをすべてのライカファンと後続するであろう戦士に送る。
ライカと私とカメラ遍歴
カメラ好きであれば、誰しもがいつかは耳にするライカという名前。
僕もいつ知ったかは定かではないが、「ドイツのカメラですごい高くてとにかく高いだけのカメラがあるらしい」というくらいの印象であった。
カメラ遍歴はこの記事に書いとりますが、正直「Nikon D750」すら全く使いこなせていないにもかかわらず、とある2つの運命的な出来事によって脳の奥底で燻り続けるライカという存在が一気に爆発します。
まずひとつはマニュアルレンズを貰ったこと。
「Nikon AI 50 f/1.2S」を貰ったので勇んでD750に取り付けてファインダーを覗いたら・・・ピントが合わせられない。
撮影レベルが低いのはもちろんだが、デジタルカメラのファインダーがショボいと言われることについて初めてガッテンボタンを押した。
そして一緒にもらったNIKON F3のファインダーで見るとこれがとてもクリアでピントが合わせやすい。
デジタルカメラってのはAFありきなのかと、ピント調整できないならビューファインダーで拡大すれば良いじゃないかと、これがデジタルとフィルムの思想の違いなのか!
そしてふたつめはバルナックライカⅡfを貰ったのでありますよ。
要するにF3+50mmF1.2とLeicaⅡfを貰うという奇跡が起きたのです。
そして生まれてはじめてライカを持った瞬間に「終わったな」と悟りました。
気分はお釈迦様の掌で弄ばれていたことに気付いた雲乗り猿ですね。
これはライカを手に取った人間にしかわからないであろう感覚でして、詳細は上記記事に書いてあります。
結局、「真の光学ファインダー」と「ライカの質感」を知ってしまったのが原因で頭のISOが飛んでしまった。
これにより、ライカのことが頭から離れなくなっちまったわけだ。
そんでもってそこからはカメラやってて一番楽しい「情報収集」です。
カメラって奥が深くてWikipediaみたいな情報網を持っているので、調べれば調べるほど楽しくて苦しくなる水中息止め勝負みたいなもんです。
しかもこの情報化社会のせいで異様にコストダウンした情報=カメラ雑誌が、Kindle Unlimitedで溢れています。
月額980円で雑誌ライカ通信やCAMERA magazineやF5.6とかが腐るほど読めます。そんな知れば知るほど物欲が濁る情報が大量にインプットされます。
知れば知るほどその膨大な情報量と情報取得に要した時間がもったいなくもなり、気づけばマップカメラとヤフオクの閲覧が日課になります。
実機を触らせてもらったら最後だと思え
あーでもないこーでもないと悩みつつ、無益に時間は過ぎていき、一大決心して実機を見に行くことに。
当然、フィルムライカどころか最新のデジタルライカですらけっこうな都会に行かなくてはお目にかかることすらできません。
ちょうど用事で神戸に行くことになり、よせばよいのに雑踏に分け入り有名な中古カメラ屋へ。
そこの店主が非常に良い人?ではるばる秘境から来たというと、「そんな田舎におったらライカなんて触ったことないやろ」と実機を触らせてくれました。
脳内警報機が一斉にけたたましく鳴り響きましたが、んな事言われたら触る以外選択肢はないのは言うまでもない。
しかも店主の口からキラー&パワーワードが吐き出されます。
「ライカは今から値段が跳ね上がる。なんでかわかるか兄ちゃん?チャイニーズが買い占めとんのや。日本のライカはぎょうさんチャイナに持っていかれとる。そしたら二度と日本に帰って来ん。チャイニーズは金持っとるからな」
なんとチャイナマネーがこんなところまで!そういえば日本の旧車が海外に流れまくって中古価格が高騰しているとニュースで見たけど、あの現象がカメラにまで・・・
もうこの時点で「これ買いま・・・」くらいだったのだが、M3以外の選択肢も捨てきれていなかったのでお礼を言って店をあとにします。
が、その後買っておけばよかったと死ぬほど後悔したのはあとのリオのカーニバル。
やはり実物を触り、シャッター巻き上げさせてもらったり、シャッター音聞いたり、ずっしり感に酔いしれたりしたらもう駄目です。
特にファインダー見たらもう末期患者。
冷静と情熱のライカ
一度田舎に帰り、そろそろ稲刈り前の田んぼを眺めながら考えます。
この辺からは非常に女々しくすすり泣きながら悶絶するのでお見苦しい様相を呈しますが、ライカ購入は件の苦しみを要すのです。
ライカ中毒患者の病態観察だと思って読んでください。
フィルムかデジタルか
まず復習として、フィルムかデジタルで悩みます。
ですがやっぱりデジタルライカは論外です。新品で100万円、中古でも10年落ちで嫁の中古軽自動車と同じ値段します。
デジタルカメラは消耗品です。なぜなら電源が無いと高級な文鎮でしかない。修理も複雑なので、メーカーが電池の生産や修理サービスを終了した時点でジ・エンド。
エヴァンゲリオンを見た人ならその絶望感がわかるでしょう。残念ながらデジタルカメラは暴走しません。熱暴走ならするかも。
フィルムカメラはその点、デジタルカメラより寿命は遥かに長いです。ライカの真価は機械式カメラの長い歴史であり、部品は豊富にあり、熟練工も細々とご活躍されています。それにそんなに壊れない。
フィルムも値上がりしていますが、フィルムの生産が続く限り、自家現像を駆使して何とか細々と生き続けるでしょう。
なんせM3は発売されて65年でもそれなりの値段で現役活躍しています。バルナックライカならもっと長生き。
本場ドイツでは機械式ライカを子や孫が受け継ぐそうですし、そう説明すれば嫁さんも二つ返事・・・にはならないか。
M3かM2かM4かM6か
それでは具体的にフィルムライカを買おうと思うと、ここでまた問題が。
M型ライカはいっぱいあります。どれを買うか、これがまた難しい。どれも一長一短あるからです。なんせ最近のカメラと違って、時代を経てもそんなに変わってないのが影響していますけど。
まずおさらいとして各機種のポイントをざっと説明。
M3(1954年)
・M型ライカの始祖にして最高傑作
初代が最強ってかっこいいよね。
・ファインダーは唯一の0.9倍
M3のファインダーを超えるものは未だに無いと言われている。
0.9倍というのは、人間の視界に対して。その他のM型ライカは0.72倍など。
0.9倍なので、ほとんど自分が見た景色と同じ。これは使ってみないとわからない凄さ。
・50mmレンズ以上専用機
0.9倍ファインダーのため広角レンズが使用できない(外付けファインダーかメガネで代用可能)
50mmを普通レンズにしたのがライカだし、まあ順当なのかも。
・露出計なし+フィルム装填や巻き戻しが面倒
デジタル世代にとって露出計がないということが想像できない。
フィルムの出し入れが他モデルより面倒だが、バルナックライカよりはマシ。
M2(1957年)
・M3の簡略版というか広角レンズ対応モデル
M3よりお求め易く、ファインダーが簡略化されたので安物イメージがあるが、M3の広角レンズ対応モデルと思ったほうが精神衛生上よろしい。
・ファインダー倍率は0.72倍
これにて35mmレンズが使えるようになる。
本来レンジファインダーカメラは広角域との相性が良い。
このファインダーはその後のM4などにも受け継がれる。
・シンプルな機能
M3と違いセルフタイマー機能が無かったり、フィルムカウンターが手動となっている。
・露出計なし
まあね。
M4(1967年)
・M型ライカ完成形
M2の進化版であり、その後のM型ライカはすべてM4が母ちゃんみたいなもの。
そしてライカ黄金期最後のカメラでもある。
・35mm、50mm、90mm、135mmなんでも来い!
ほとんどのレンズ領域が使えるレンズ沼人間養成所
・フィルム装填が楽ちん/クランク巻き戻し
フィルムの装填が差し込むだけとなる。
M3やM2のノブ式よりも迅速なクランク巻き戻しが可能。
・まだ露出計なし
外付け露出計高いよね。
M6(1984年)
・ついに露出計内蔵
M5にも露出計内蔵されていたが、M6からは使いやすいTTL露出計。
・製造期間が長く中古のタマ数や部品も多い
って聞いたんだけど、最近中古価格値上がり中
・初ライカ最適だけどちょっとちゃちい
実用しやすさ最高でフィルムライカ初心者向けといわれているが、M3などと比べるとプラスチックパーツもあり全体的にちゃちい。
とまあこんな感じ。
その他、デザイン不評だけど実は使いやすいと最近人気のM5、ライカ暗黒期のM4なんとかたち、機械式じゃなくなったM7などもあるがたいてい迷うのは上記の4台ではなかろうか?
結局M3を選んだわけ
最終的にM3を選んだのだが、そこまではまさしく堂々巡りというやつだ。
先程の基本情報に付け加えて、フェイクニュースのような噂を含めた裏情報を踏まえて考えてみた。
M3
「ライカ語るならM3を持たずして資格なし」
「歴史上最高のファインダー」
「広角レンズ非対応なのでレンズ沼に深入りしなくて良い」
M2
「安くて何でもできる便利屋」
「通はM2でしょ」
「やっぱり廉価版?」
M4
「ライカ黄金期の最終兵器」
「M4買っておけば間違いないという風潮」
M6
「初心者は絶対M6がええで」
「やっぱり露出計いるでしょ」
「でも結局M3買うことになる」
M6→M3→M4→M2→M4-P→M3→M8→M-E→M3→宝くじ購入→MM→M2→M6→M3
とだいたいこんな感じで無限ループに陥った。
数々の情報、実機見物、堂々巡り、絶望、虚無、そしてM3を購入する決意を固めた。
決めてはやはり「歴史上最高のファインダー」と「結局M3買うことになる」という殺し文句が頭から離れなかったからだ。
そもそも何か用途があってライカが欲しいわけではない。
ライカが欲しいのだ。
ライカ原理主義者のポエムはとどのつまり物欲なのである。
だってかっこいいんだもん。
実機触ったら終わりというのも頷ける。
あれは見たり触ったりシャッター巻き上げたりファインダー覗いたらもう駄目。
この感覚、どう伝えようか悩んだが、プルーストでも筆を折りそうなのでやめた。
文章表現ではこの感覚を伝えるのは不可能なので、一番この感覚に近い動画を見つけたので紹介する。
これがライカを買う直前の人間だ!!!!!!!
こんな感じでM3買いま・・・とはまだまだいかない。
ライカゾンビにも意地がある。
ちょっと待て、その金で何が買えるのか
いろいろ調べたり、中古カメラ屋のおじさんの話を思い出すと、どうやらオーバーホールされたM3を買うのがセオリーらしい。
特にM3はファインダーが超絶技巧で超複雑らしいので、ちゃんとした店のちゃんとした店でオーバーホールされたちゃんとしたM3を買うべしと言われた。ちゃんとって何かね?
するとどうでしょう?
最近値上がり中のライカ機械式カメラにおいて、ちゃんとした店のちゃんとした店でオーバーホールされたちゃんとしたM3は20万円前後するのだ。
10万円のもたくさんある。8万円もあった。難ありって何かね?この時代にフィルムカメラ買うやつが難ありだろうに。
そしてレンズ、M3といえば「ズミクロン50mm f2初代沈胴型」だろう。
これも10万円前後。
ということは、30万円は用意しておかないといけない。
30万円?
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これ買えますやん!
あの商売下手でお馴染みなNIKONがついに膝から崩れて作ったミラーレスカメラが!
しかもマウントアダプター買えば、レンズ買わなくてええやん!手持ちのレンズでいけるやん!
ソニー SONY フルサイズミラーレス一眼 α7RM3 ボディ ILCE-7RM3
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4240万画素も買えますやん!
10コマ/秒で5軸ボディ内手ブレ補正でおまけに4K撮れて・・・瞳AFって何?
シモ・ヘイヘかよ。
しかもキャッシュバックキャンペーン中じゃん!4万円とか帰ってくる。アムロが帰ってきたよ!
冷静になれ。
30万円出して何でも簡単に撮れて4K動画もいけちゃうカメラを買わず、露出計なしでいちいちレバー引いて24枚か36枚撮ったら巻き巻きして底蓋開けてフィルム取り出して店に持っていって現像してもらって写真拝めるまで1週間とかかかるカメラを買うのか?
狂気の沙汰ではないか!
そもそもカメラなんかスマホあれば不要じゃないか。
絶対10万円でiPhone買ったほうが幸せだ。妹のiPhoneの写真見て「俺はなんでこんなでかい塊を抱えて立ったり座ったりしているのだろう」と虚しくなったのはつい最近じゃないか!
てか写真って何よ?
プロにでもなるのか?いや、なれない。早起きが苦手でせっかく山登っても昼まで寝ている。雲海より睡眠だ。
ただの記録ならiPhoneがある。Photoshopとか面倒くさい。たまのプリントもネットの格安プリントサービス。
ここまで来ると哲学という名のパニック状態。
ニーチェが殴られる馬を見て発狂した気持ちがわかってきます。
無条件降伏「M3購入」
結局ライカを選ぶ理由は物欲だと言い切ったが、これは真理だ。
純粋に写真の撮れ高のためだけにカメラを選ぶのは世界で30人くらいだと思う。
スマホで十分なのに高額なカメラを買うのは、それがかっこいいと思うからだ。
広告やブランドやスペック戦争で右往左往しながらも、結局数ある中から選択することはボードリヤールのいう記号なのである。
欲しいから買うのだ。自分にとって意味と価値があるから高い金を出して買うのだ。
シンプルに開き直って無条件降伏、ついにM3購入を決断する。はははは!
ライカは物もさることながら、ブランドイメージ構築が半端ない。
「行き着くところはライカ」なんて言われるが、「いつかはクラウン」とか「最新のポルシェが最良のポルシェ」みたいに道ができてしまっている。
すべての道はライカに通ずのだ。僕のようなタイプは特にこれに弱い。
ライカ持ってれば写真うまくなる気がするし、ぶら下げているだけでも様になって、飾っとくだけでも幸せだ・・・と内心思ってるような軟弱写真趣味者はイチコロ。
しかし最近フィルムカメラブームらしい。
アナログレコードとかカセットテープなんかも来てるみたい。
デジタルカメラは便利で撮れ高も素晴らしいのだが、どれも似たりよったりな気がする。
誰かの本に書いてあったが、各メーカー熾烈なスペック戦争に陥っているのは結局カメラの個性が生み出せないからだと。
個性というか売りかな?
スペック戦争は商品更新サイクルが激しく、5年前のカメラがもう二束三文で転がっている。試しに最近のカメラを思い浮かべても、スペックや機能のことしか思い出せない。
逆に数少ない尖っていたカメラである「Nikon Df」とか「SIGMA DP」シリーズなんかはあまり値下がりしていない。
どうも僕のようなタイプはスペック戦争から脱落するのが早く、かといって何か変化を求めている。
趣味とは案外そういうもので、趣味そのものよりその周辺への跳躍と拡大を目的としている者もいる。
常に新天地を求めて落ち着かない多動タイプは、ライカのようなブランド戦略に弱い。ライカは西部フロンティアでありアルデンヌの森であり月面なのである。
なんせライカは広大だからだ。最近のカメラメーカーが直線的なのに比べて、ライカはアリの巣のように細くて無駄な道を張り巡らしている。
カメラ趣味の王道からちょっと目を逸らせば、いつもそこには魅惑のライカ横丁があるのだ。中判カメラ坂やハッセルブラッド峠やプラウベルマキナ山もあるよ。
ということで、兎にも角にもM3購入決定!
ここまでの長い長い自問自答はすべて購入への言い訳である。
でもこれが一番楽しかったりするんです。はい。
まとめ
つうことで、1ヶ月くらい迷って、いや実質10年以上燻り続けて結局ライカ買いました。
実際のところ、いつかは買うと思ってたんですよ。
うちの亡くなった祖父なんてばあちゃんに内緒で当時高価なカメラを腐るほど月賦で買っていたそうですし、これも遺伝病の一つかなと。
やっとM3購入する気にはなったけど、これがまた一筋縄では行きません。
M3はM3でも色々あるんです。
ということで、長くなったので次回へ続く。
次回「人生いろいろ M3もいろいろ」
洗脳図書
通称あたし本、分かる人にしかわからない詩集
Pen (ペン) 「特集:【完全保存版】 ライカで撮る理由。」〈2019年3/1号〉 [雑誌]
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悪魔の書
レンズとか調べるともう息継ぎもできない