サンタ・クルス谷トレッキング

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外はまだ暗闇、ダウンを着ていないと奥歯がガチガチする朝5時。

サンタ・クルス谷トレッキングの入り口、カシャバンパに向かう。

ワラスの北側の大きな橋の横にある、カラス行きコレクティーボ(乗合バス)に乗り込む。

ハイエースくらいの大きさのワゴンにバックパックと共に詰め込まれ、少し日が差し始めたワラスの町を抜ける。

カラスまでは一時間。道中ユンガイという雪崩で2万人の住民を道連れに消滅した町跡に建つ教会があった。

 

カラスのバスターミナルで降りるとカテドラル目掛けて坂を登る。カテドラルを過ぎるとメルカド(市場)があり、活気づく朝市を東に抜けるとカシャバンパ行きのバスターミナルがある。

バスといってもトヨタカローラだ。魔女の宅急便のオソノさんのような気風の良いおばさんの車に乗る。おばさんはスペイン語と英語が混ざり合った変な言葉で僕達に話しかける。

カシャバンパまでの道はオフロードバイクの大会ができそうな荒れている。そこをおばさんは豪快につづら折りに崖を登っていく。

隣の乗客がサンタ・クルス谷を指差して教えてくれた。巨大な山塊がバックリとそこだけ割れている。地球の裂け目といった感じだ。

 

 

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サンタ・クルストレッキングはここからよ。がんばんな!」

1時間ほどでトレッキング入り口に着く。

入り口で先日登録しておいた国立公園の入場券を見せ、9時から登り始めた。

 

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裂け目に近づくとその巨大さに息を飲む。1000mはあろう山塊が真っ二つになっている。しかもここは標高3000mだ。すぐ下の濁流がどれほどの時をかけてこの谷を作ったのだろうか?

 

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そんな探検家気分も束の間。

初っ端から猛烈な上り坂。それがどこまでもどこまでも続く。

蛇行する谷のせいでいつまでも続くのではないかと思わされる。

高所特有の強烈な日差しと吸血アブの御一行に襲われ、早くも山を降りたい気分に。

上を見上げれば容赦無い岩塊、下を見れば馬と牛の糞。

 

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放牧地でもあるので糞が落っこちているのは当たり前だが、その量が半端ではない。

エベレストトレッキングでもヤクの糞道に出会ったが、こちらは糞の上に道がある。

道中、牛や馬やロバがのっそり出てきたりと自然を満喫出来る。

 

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2時間も歩くと嫁さんの疲労が限界突破した。

高地順応はしっかりしたし、荷物もかなり軽めにしたのだがへたり込んでしまった。

日本の山でも登山経験があったので、いけるかと思ったがやはり槍ヶ岳の頂上よりも高い場所でのトレッキングは荷が重かったらしい。

ポーターやロバもお金を払えば雇えたのだが、「まあ行けるでしょう!」とケチってしまったが後の祭り。

 

 

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結局、僕が荷物を持ち5時間半かかって何とか初日のキャンプサイトにおっついた。一時は下山も覚悟したがお互い頑張った。

しかも頑張ればお天道様も見てくれるのか、雨季にもかかわらず晴れ間があり、キャンプサイトは僕達だけ。つまり貸し切りだったのだ。

 

シーズンオフだからか管理人は居らず、牧童に聞くと「どこでもテント張れば良いよ。」

そうは言うがキャンプ指定地には見事な放牧風景。ロバや牛が草をはむはむしている。ということは辺り一面クソまみれ。

テントを張る場がないほどのウンコフィールド。メッシでもウンコを避けてドリブルするのは不可能だ。

しかもテントを張る絶好の場所には先客の山盛りウンコ。計画的犯行としか思えない。

 

なんとかウンコフィールドの隙間を突き、マイテントを張る。

まさか我がエアライズもわざわざ日本から空輸され、初仕事がウンコとウンコの隙間だとは夢にも思っていなかったろう。

牧童たちの帰り、広々としたキャンプサイトは牛とロバと僕達だけ。雨季のこの時期は夕方は雨だといわれたが、そんなことはなく谷の遥か先まで見通すことができた。

こんな絶景を独り占めなんて5つ星ホテルでも我がテントにはかなうまい!とウンコの臭いにも慣れきった鼻をさすりながら思うのであった。

 

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テント設営も終え、いざ食事。

ワラスで買ってきたパスタやインスタントラーメンを用意し、水場に向かう。

水場といっても川であり、牧童曰く「すんげえうめえぞ。」とのこと。

もちろんそんなわけはなく川のせりにもウンコ。というか牛が足突っ込んでいる。

僕らはペーターではないので煮沸して飲むことに。

SOTOMUKAバーナーちゃんはプレヒートいらずの頼れるやつだが、ポンピングが結構必要で高所かつ疲労の中でのポンピングは意外にしんどい。

やっと火をつけてまずはコカ茶を飲む。高地では水分補給が大切だ。こんな景色で飲むコカ茶は格別にうまかった。

 

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食事を終え、寄ってくるロバを追い払い夜を待つ。

なんといっても星空だ。4000m近い夜空はどんなものなのだろう。

夕日が山を朱色に染め、目に見えて辺りがゆっくりと暗くなってくる。

一番星を見つけてから、12つと眩い星が増えてくる。

最後の太陽のなごりが消え去ると、ものすごい数の星が湧きだした。

すごい星だ。じっと見ていると錯覚で星たちが蠢いているようにみえる。

そんな感動も眠気には勝てず、寝袋の中に埋もると朝まで眠っていた。

 

 

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嫁さんを連れてこれから峠越えを含むもう2泊は不可能ということになった。

高山病の症状はないので、今度からはポーターでも雇うとしよう。

 

 

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ということで本日は僕だけで行けるところまで行ってみることに。

この先にはアマルパヨという世界一美しいといわれる山もあり、時間が許す限り進んでみた。

 

 

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ひたすら川の横を登って行くと大きな湖がある。うっすら緑色の湖は谷間から落ちる滝の水を受け止めていた。

 

 

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湖を過ぎると砂漠のような荒涼とした大地になる。そこにあるのは石ころと動物の死骸だけだ。

 

 

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その合間をのそのそと歩く。周りの山が大きすぎていくら歩いてもまるで進んでいないような感覚に陥る。

 

 

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小川をいくつか越え、山道を登れば絶景。

 

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ここまで3時間半。しばし景色を楽しみ帰路につく。この間は登り坂も特になく、ただひたすら遠い谷間の向こうを目指す道だった。

 

 

夕方、テントに落ち着くとツアーの団体客がいた。

ガイド、ポーター、コック、2匹のロバ付き。白人のグループがいた。

やはり次からは無理せず現地の人を雇ってみよう。

新鮮な魚をさばくコックを見て、僕のお腹がそう言った。

 

 

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※テントからの景色

最終日は気持ちが良い快晴。

テントを撤収し、寝袋などを干す。

燃料の少なくなったガソリンストーブのポンピングがやたら増えた。

パッキングも終わり、いざ下ろうと思った時に二人組のトレッカーがこっちに寄ってくる。

彼らは宿のお隣さんだった。彼らは僕らと反対のバケレアからトレッキングをしていて、今日が下山だったのだ。

 

このフランス人カップルと一緒に下山することに。

彼は英語とスペイン語がペラペラかつ今まで世界中の山々を駆けてきたという僕の理想の人物像そのままなのである。

持っている装備も非常に考えられたもので、さらにソーラーパネルやミニスピーカーなんていうガジェットを武器に山で音楽をかけながらの下山になった。

ここぞとばかりに世界のトレッキング情報を聞きながら楽しく過ごす。

・・・も、雨季のくせにべらぼうな快晴で日差しが強烈この上ない。

2時間が過ぎると疲労で皆ふらふら。

結局、4時間かかってやっと下山できた。こんなに天気が良すぎるのも運がよいやら悪いやら。

 

 

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麓で小売店をやっているおじさんが「コレクティーボ呼んであげるよ!」と行ってくれたので、待っている間にビールで祝杯を上げる。

この瞬間のためだけに山をやっているといっても過言ではない。登山の醍醐味は頂上の景色と麓のビールであると断言する。

コレクティーボに一時間揺られ、カラスで昼食をとり、また満員コレクティーボに撹拌されながら夕方にやっとワラスに着いた。

 

 

 

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非常に疲れたが、アンデスの雰囲気とあの星空を眺められたのは最高だった。最深部に行かれなかったのは残念だが、今後の良い参考にはなった。