ピサックの日曜市、クスコの夜景

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朝からクスコは雨。

高所の雨は一気に気温を下げてしまう。

昨夜からの断水で無性に喉が渇く。寝る前に水分を取らなくても普段は平気なのに、断水と聞いただけでやたらと渇くのだった。本能か貧乏性か。

そんなこんなで朝ごはん。この時期は卒業旅行の大学生グループが多く、同じテーブルの人達もそうだった。海外で卒業旅行なんて羨ましい。僕は九州を野郎5カローラ車泊の45日プランだった。今考えれば、あれだけの人口密度で耐えれたのだから、今後何に乗っても大丈夫なような気がしてきた。

 

雨が止むまで読書して過ごす。

せっかく海外に来てまで部屋で読書というのはもったいないと思われるかもしれないが、読書好きにはたまらない時間でもある。異国の地で溜めていた本にどっぷり入り込むというのはかなりの贅沢なのだ。

本といっても紙の本ではない。紙の本は世界一周旅行では文字通り重荷になってしまうので、選りすぐりの精鋭しか持ってきていない。

あとは電子書籍。我がNexus7ちゃんには青空文庫やアマゾンなどで揃えた本が田舎の図書館くらい入っている。まさに四次元マイ図書館だ。青空文庫だけでも一生かけても読みきれない本があるので、ネット環境さえあれば膨大な書籍を手にすることができる。なんて素晴らしき世界。

 

昼には雨が上がり、今日はマチュピチュ入場券を文化庁まで買いに行くことに。

マチュピチュ村でも購入可能らしいが、まさかの事態のために事前購入しておくことにしたのだ・・・が宿を出た時に気づいた。

「今日はサンデーではないか!」

関口宏の顔が一瞬浮かんだ。

日曜日は官庁関係が休みかもしれない。

ツーリストインフォメーションで聞いてみると、わざわざ電話をかけてくれた。

「今日はクローズだよ。」

クローズ?ヤンキーが戦争しているわけではなく、やはりお休みだった。

まあ、オフシーズンなので前日でも余裕らしいのでここは予定変更だ。

 

日曜日と聞いて思い出したのは、たしかどこかで日曜市が行われるということだ。

地球の歩き方で見た記憶が。

探してみるとピサックというクスコから1時間ほど行った山間の街で日曜市が行われていると書いてあった。信長が茶漬けをかきこみ桶狭間に突撃したように、返す足でピサック行きのバスターミナルへ向かう。

 

バスターミナルは広場から15分くらい太陽の神殿方面に歩く。

バスターミナルは汚いバラックで、一人6ソル払ってこれまた汚いバスに乗り込む。

もちろん乗合バスなので客が詰まるまでしばし待機だ。

可愛らしい女の子が毒々しい色のゼリーを売りに来たが、カタツムリみたいになりそうだったので苦笑いしかできなかった。

運転手は客が集まるまで暇そうにしているくせに、一定ラインを超えた瞬間に何も言わず走りだした。マリオカートのスタートダッシュのようで懐かしい。

 

バスは途中で客をさらうように乗せながらぐんぐん山を登っていく。

山の上からはクスコの町が一望できる。緑の山々の間にぼっこりと開いた茶色の穴のようにも見える。

峠を越すとドリフトできそうなヘアピンカーブを何度も曲がり、深い谷へと入っていく。

 

山には頂上の方から段々畑がびっしりとある。あんな高いところまでどれほどの労力をかけて向かうのだろう。

段々畑はたしかに美しいが、僕にとっては見慣れた「貧しい」風景でもある。

僕は段々畑がそこら中にある日本海側の平地の少ない寂れた漁村で生まれた。

アンデスの段々畑とは趣旨が少し違うが、段々畑とはその美しさとは裏腹な土地の貧しさを現している。耕作地が少なく土地が痩せているための苦肉の策で段々畑という恐ろしく労力がかかる生活をしなければならない。

そう考えるとピラミッドやアンコールワットのような巨大なものが美しいと感じるのも、それを作り上げた先人達の涙ぐましい労力に尊敬の念を込めて「美しい」と形容するのかもしれない。

 

アンデスの段々畑は標高の高いこの地ならではのものである。標高ごとに作物を変えたり、太陽熱を利用するなど実はものすごい高度な技術でもあるという。マチュピチュは特にその傾向が強いらしいので、非常に楽しみだ。

 

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そんな望郷の念にどっぷりつかっているとピサックの町が見えてきた。

絶景だ。どこか日本的な風景が続いていたが、峠を越えきると恐ろしいまでの風景が現れた。

ゴツゴツした山の合間を縫う川、広がる畑、そして白いテントに覆われた町。

白いテントは日曜市であろう。

ピサックの町に降り立ち、市場に向かう。

クスコと違って泥まみれの道を進むと先ほどの白いテントの中にお店がたくさん並んでいる。

 

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手前に野菜や肉といった現地の人達の生活の市場があり、その後ろはすべて観光客用のおみやげ市だ。

初めは生活市場に近隣の村から民芸品を売りに来る小規模な市だったらしいが、観光客が詰めかけると形成が逆転したようだ。

インディヘナのおばさんたちが野菜や果物を買う後ろで、白人のおばちゃんがアルパカのセーターを値切っている何とも不思議な情景。

 

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それにしても白人が多い。日本人は一人もいなかった。

 

 

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それにしてもこんな田舎の村に外国人が詰めかけている風景は、非日常感が満ち溢れてとてもおもしろい。それに人の買い物風景というのはなぜかウキウキしてしまう。

商品も選り取り見取り。アルパカのリアルな置物からインカ帝国時代の武器まで並んでいる。

 

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インディヘナのお母さんたちが子どもと一緒に店番をしていることが多く、そこら中を子供が犬と一緒に走り回っている。

周囲を見渡せば、レンズに収まりきらないくらいの巨大な山に囲まれているのどかな街でもある。

 

 

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昼食は外国人用の高そうなレストランもあったが、僕たちは現地の人達の集う店へ向かう。財布と胃袋はつながっているのだ。

ここで食べたランチ。豆スープにチキンカレーっぽい定食はとても美味しかった。おそらくカレーではないのだが、日本の甘口カレーにそっくりな味付けでこれで5ソルかと思うと泣けてくる美味さ。

 

帰りも乗合バスだ。

特に何も買わなかった。買えなかった。今後のことを考えると荷物になるので欲しくても買えないのだ。

南米だと日本に送るのも高いので悲しいところ。

長期の旅行になると思い切った買い物が難しいのだ。(お金があれば別だが)

なので嫁さんは何カ国に買い物を絞って効率よく日本に送る算段らしい。

 

土産も結局小さくて壊れにくいものを選ぶことになりがちなので、なかなか欲しい物が買えない事が多い。陶器やガラスの製品などは持ち運びが難しいし、海外の手荒な輸送に任せるのも気が引ける。大きすぎるとコストが掛かり過ぎるし・・・なんていっていると毎度Tシャツになってしまう。

以前、インドでイカすラクダ革の鞄を買ったが日本に持って帰ったらすぐにカビるんるんになってしまったという、やなせたかしっぽい話もある。

 

 

クスコに降り立つ。

夕暮れ時、晩メシの食材を探すもやはり観光都市。中心部に野菜や肉が売っている普通のスーパーはない。新規開拓のため偵察に向かっているとサンフランシスコ広場で人だかりがあった。

まさかの教会前で大道芸人がはしゃいでいる。

大道芸人といえばメキシコで嫁が拉致されたという思い出が浮かぶ。

 

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人々の笑い声が渦巻く広場。

やはり笑顔は万国共通。

そしてウマそうなニオイも万国共通。

広場でB級屋台村ができていた。肉と卵焼きをのせた丼や焼き魚などが売られている。

鼻がおかしくなる。なんという殺人的なウマそうなニオイ。

原因をたどると、ついに見つけたアーティチョーク

ずっと探していた此奴は牛の心臓、ハツだ。鼻から脳みそがこぼれそうなくらいアーティチョークに引きつけられてしまった。

 

 

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ひとくち食べた瞬間。この旅始まって以来の美味しいものランキング堂々一位に君臨した。

これで3ソルだから100円しない。

あまりの美味さにパスポートを日本大使館に投げつけて、このおばちゃんの養子になるところであった。

分厚い牛タンのような食感、塩コショウの効いた肉、シンプルイズベストでこっちのハートにブレイクショット。

余韻に浸りながら宿までの道をいつもより軽快に帰った。

 

 

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相変わらずカサデルインカの景色は最高で、あの森脇健児が好きな心臓破りの坂並の坂を越えただけある。

 

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今日は昼からカラッと晴れたせいか、とても空気が住んでいて夜景が美しかった。

 

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この夜景を見るだけでもクスコにいる価値は十二分にある。

 

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嗚呼、クスコとアーティチョーク