ダハブで世界一周旅行者の持病『旅疲れ』を癒やす。

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エジプトはダハブにいる。

シナイ半島の先、紅海にあるリゾート地ダハブは「恋するダハブ」なんて呼ばれていたりする。
何に恋するかは知らないが、リゾート地のネーミングセンスなんてのはだいたいいつもこんなものだ。
実際来てみると、その「恋するダハブ」はずいぶんと寂れていた。
人気のない通りには、日焼けた看板だけが残る空っぽの店が並ぶ。
海岸沿いの小洒落たレストランにも、暇そうな店員がたばこをふかしているだけで客はさっぱりいない。
切れかけたネオンの光に照らされた夜のダハブは、半分死んでいるような町だ。
不味いエジプトビールでも飲もうかと店を覗くも、気づけばマンゴージュースを頼んでいる。
半分海の上にあるレストランの端っこの席で、溶けかけたアイスが乱暴に乗せられたマンゴージュースを受け取る。嫌にベタベタするそのコップのひんやりとした冷たさを感じ、また今日も何もなかったとため息をつく・・・

 


・・・と、大塚明夫山寺宏一堀内賢雄で脳内再生をお願いしたいなんちゃってハードボイルドでカウボーイビバップ風な文章から始まる久しぶりの更新!

 

ただいまエジプトはダハブにいる。
何をしているかというと何もしていない。
せっかくのリゾート地にも関わらず、寝て食って寝る生活をしている。
朝も夜も安くて量が多い行きつけのレストランに向かい、糞暑い日中はエアコン付きの部屋で本や映画でも見る。

 

エジプトといったら世界的な一大観光大国。南に行けばギザのピラミッドにも負けないくらいの巨大で荘厳な遺跡が掃いて捨てるほどある。

 

でも僕たちはここダハブで、1週間何もしない。
なぜか?
それは重度の『旅疲れ』という厄介で贅沢な病を治療中だからだ。

今日は(暇なので)そんな旅疲れについて語ってみよう。

 

 

旅疲れ

旅疲れとは、長期旅行者にありがちな連続した移動と度重なる環境の変化により起こる慢性疲労とそれによって起こる無気力症候群である。
しっかりと働いて税金を収めている皆様から見れば殴りたくなるような贅沢な病だ。
旅疲れはいろんなパターンがある。ここで旅疲れを分類してみる。おそらく世界初の試みだ。

 

①夏休みの少年型旅疲れ

世界一周ともなれば、毎日が夢のような日々。行きたかった場所や食べたかった料理がこれでもかと旅人を待ち受ける。
そんな楽しすぎる日々を謳歌していると、一つ重大なことを忘れてしまう。

それは休養だ。

旅なんて実際遊んでいるだけなので、気分は夏休みの少年。仕事や学校と違いノンストレス生活が続くので、休養など必要としなくなるのだ。
しかし、そんな夏休みの少年パワーもさすがに数ヶ月にも及ぶ旅を続けていると身体にガタが来始める。気づいた時にはすでに遅く、蓄積された疲労は重度の倦怠感を引き寄せる。多分このまま2学期が始まったら死んでしまうだろう。
主に貧乏旅行者に多い。

 


②ホームシック型旅疲れ

遠い異国の地、度重なる環境の変化、不衛生な町並み、治安の悪い地域、味噌と醤油が味わえない日々・・・
母国日本とかけ離れた生活が続くことで、如何に日本が恵まれ、如何に安全で、如何に母ちゃんの料理が美味かったかという再認識期に現れる旅疲れ。
とくに旅序盤と後進国滞在で発症しやすい。気づけば日本的なものを求めて街を彷徨うような奇行をする人もいる。
主に初めての海外旅行でいきなり世界一周してしまう女の子に多い。

 


③世界スタンプラリー型旅疲れ

地球が好きすぎて、できるだけ色んなところに行ってやろうと意気込む旅人に多い。
このタイプは、特に行きたいわけでもないのにパスポートのスタンプを増やすためだけにビザまで取って色んな国に行かざるを得ない衝動にとらわれてしまう。
そのうち、如何に誰も知らないような国へ行ったとか、如何に一筆書きで色んな国を巡るだとか、如何に大陸を制覇するだとかいうような謎の使命感に襲われ、世界を股にかけたスタンプラリーマンと化してしまう。
そうなると最早お気楽な旅というよりもノルマに追われたサラリーマンと同じ境遇になってしまい、度重なる移動とビザ待ちで身体精神共に蝕まれる。
主に大学中退者、先天的潔癖症な人に多い。これをこじらせすぎると植村直己のような超人になれる。

 


④悟り型旅疲れ

世界中を周ることで、今まで知り得なかったことを実際に自分の目で体感できる。これぞ旅の真髄である。
しかし、感受性が強すぎるとこれは一種の劇薬でもある。日本という豊かな国に生まれそこで育ち培ってきたアイデンティティが、崩壊しかねないほどのインパクトを受けるときもある。
そしてそこで「自分とは一体何者なのだろう?」「自分はこれでよいのだろうか?」といったような天啓を受ける。遅れてきた思春期に取り憑かれ、未だかつて誰も答えを出したことのない、というか答えなんてあるはずもない疑問に苦しめられる。
そういった人たちは、貧しい人々と生活を共にしたりボランティアに取り組んだりヨガしたりツァラトゥストラを読んでみたりと自分を見つめる日々に身を投じる事になる。
これにより、悩み多き長期沈没者となって気づけば活動意欲の著しい減退状態が続き、ひいては日本社会への復帰がままならない体になってしまうこともある。
主に感受性が強く自己評価が著しく低いタイプに多い。これをこじらせるとチェ・ゲバラのような革命家かラブアンドピースなシャブ中ミュージシャンになってしまうので注意が必要だ。

 


旅疲れはだいたい以上に分類することができる。
僕らは①のタイプで、特にスペイン巡礼終わりから東欧・バルカン半島にかけての怒涛の移動により発症したものと思われる。
この区間は物価が高いので、できるだけポイントを突いて観光をし、夜行バスを上手く利用することで宿泊費を減らすという作戦に出たのだが、それにより十分な休養をすることができなかった。
蓄積された疲労はトルコでついに爆発した。おそらく一気に気温が上がったことも一因だろう。
せっかくのトルコも観光気分が沸かず、食欲も減退し、ベッドでずっと寝ていたい衝動に駆られた。
考えてみれば、巡礼が終わってからほぼ休みなしでチェコから陸路でトルコにわずか1ヶ月ほどで移動したわけだから疲れるのも無理もない。

 

ということで、今ダハブで何もしない生活をしている。
物価も安く、食べ物もリゾート地とあってうまいものが多いので、恋もダイビングもしないダハブは最高の休息地だ。

「旅疲れ」の治療方法はただひとつ、素敵な町でゆっくりすること。

ダハブはそんな人におすすめな町。