悲しき王の夢の跡「シーギリヤロック」
8月17日
よく寝たような、まだまだ寝足りないような気分のまま、朝食のミルクティーを飲む。
朝からスリランカのミルクティーとは豪勢だ。
今日はシーギリヤに向かう。
といっても出発は15時。
ダンブッダについてすぐ乗ったスリーウィーラーの気の良い兄ちゃん曰く、朝はものすごい混みようで遺跡がゆっくり見られないほど大混雑するという。
昼すぎまで遅すぎるWIFIをあきらめて、読書して過ごす。
蚊帳の中での読書は心地よい。
シーギリヤロック
15時、兄ちゃんのスリーウィーラーに乗せられて30分。
森しかない一面緑の世界に突如現れたシーギリヤロック。
1500年前この巨大な岩山のてっぺんに、こともあろうか宮殿を建てた物好きな王様がおったそうな。
最寄り駅に車で30分、リビングまで階段登って30分、電気ガスなしというケイン・コスギも借りないような物件は、1400年もの間ほっとかれていたという。
何でまたこんな辺鄙なところに宮殿を建てたかというと、そこには悲しい歴史がある。
1500年前、この地を統治していた王には二人の男児がいた。
しかしこの兄弟には、大きな問題があった。
王を継ぐはずの兄が、平民出身の女性との子供だったからだ。
兄は王族を母に持つ弟に王位が委ねられる思い、父親を幽閉し弟を追い出した。
せっかく王となった兄だったが、それを認めない父親をついに殺してしまう。
兄は弟が復讐しにくると疑心暗鬼に陥り、このシーギリヤロックの上に宮殿を建てたという。
そんな兄の栄華は長く続くことなく、インドから軍勢を率いてやってきた弟に討ち取られてしまう。
骨肉の争い、疑心暗鬼、盛者必衰、人間の歴史が飽きることなく繰り返してきた悲劇だ。
そしてもっと酷たらしい悲劇がある。
ここの入場料は3900ルピー(3000円くらい)
チケット代を支払う際に震える手で何とか札を取り出した時、兄王の無念の気持ちが痛いほどわかった・・・気がする。
そんな悲しい王の儚い夢の宮殿だったシーギリヤ。
広大な敷地には、かつての栄華の名残がかすかに感じられる。
入り口から続くまっすぐな道は、延々と続くかのような長さだ。
両脇には王の沐浴場や寺院の崩れかかった跡が残る。
シーギリヤロックを観光するには体力と勇気が必要だ。
入り口からかなり歩いたあとに階段&階段&螺旋階段を登っていくのだ。
螺旋階段は錆びた網で覆われている。しかも下がよく見えるオプション付き。
心なしか階段の鉄板が薄いような気がしてならない。
たしかにここで行列ができていたら生きた心地がしない。
シーギリヤレディ
螺旋階段を登り終えるとそこにはシーギリヤ・レディが待ち受けている。
東洋のモナリザともいわれる美しい壁画。
未だに何をあらわしているか明確な答えは出ていない謎の美女。
肉感的な体と艶美でどこか恐ろしくもある表情。
写真で見るよりも妖艶な美しさだ。
西洋でも東洋でもないような不思議な描かれ方をしている。
かつては500人ものシーギリヤ・レディが宮殿を彩っていたというが、今はわずかに18人しか残っていない。
美術館巡りが好きな僕は日本でもこの旅でもたくさんの絵画を見てきたが、シーギリヤ・レディはそのどれにも属していない。
引き込まれるような妖しい笑みとどことなく悲しげな影を持つ女性達は、肉親をも手にかけ誰も信じることができなくなった王の眼にどのように映っていたのだろうか。
吹き荒ぶ風の回廊を抜けるとまたしても階段がある。
かつて獅子が大きな口を開けていたという門跡がある。
その名残の逞しい足は未だに健在だ。
シーギリヤロックはとにかく風が強い。
辺りを森に覆われただけの岩山は、風のたまり場のようになっている。
それなのにこの頼りがいのない貧弱な階段。
怖くなって降りていく人も何人かいる。
夢の跡
なんとか登り切った。
頂上は華やかだったであろう宮殿の寂しそうな残骸が残る。
王の姿はない。
ここでどんなことを考えていたのだろう。
ただ弟の復讐を恐れて怯えていたのか、それとも孤独の果てに辿り着いた安住の地だったのであろうか。
360°緑が広がる。
アンコールワットといいマチュピチュといい、こんな巨大な遺跡が長い間忘れ去られていたというのが驚きだ。
ちなみに降りる時はもっと怖い。
やはり帰りは怖いのである。
風は強く錆びた鉄板がカタカタ鳴り怖さを助長する。もはやアトラクションと化したシーギリヤロック。
何とか降りて家路につく。
久しぶりのミニトレッキングで足がガクガクだ。
あれ?ついこの間780km歩いたような気がするんだけども。
身体は正直だ。
こんな時はやっぱりビールに限る。
ちなみに左側のSTRONGというビールはなんとアルコール度数8%と名前に負けないストロングスタイル!
味は薄いウイスキーで後味だけビールって感じのよくわからないシロモノ。
この後もダンブッダでゆっくり過ごし、4時間かけてコロンボに帰る。
スリランカの移動は過酷だが、とにかく安い。4時間乗って150円だ。
その代わり、窓全開なので顔は真っ黒で喉を確実にやられる。
コロンボから向かうはついにかの有名なインド様だ。
ああ、楽しみなような生きたくないような・・・行く前からすでにインドは始まっている。