チェンマイ・ローイクラトン祭り コムローイの空
10月25日
ローイクラトンとはタイの陰暦12月に行われる祭りだ。
満月の夜に水神に祈りを捧げ身を清める。
そしてチェンマイのローイクラトンでは、ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』ですっかり有名になったコムローイ(天灯)を上げる。
これがとにかく美しい景色らしく、嫁がしきりに行きたがる。
しかしいろいろ調べてみると、かなり混むこと間違いなしだというではないか!
人混みと待つことが大嫌いな僕にとっては辛い祭りになりそうだが、やはり暗闇に一斉に放たれた天灯が創りだす世界を見てみたいというのもあるのでいそいそと向かうことにした。
祭り会場はチェンマイのオールドシティから車で40分ほど。
18時くらいから祭りは始まるらしいが、道路はかなり混むらしいし、早めに行って陣地を構築しておかなければならないらしいので、15時半にトゥクトゥクで会場のメージョー大学まで向かう。
そしてすでに混みあう道路。
行きは横道をすり抜けられるトゥクトゥクかレンタルバイクが良さそうだ。
メージョー大学に着くとすでにかなりの人が待ち受けていた。
トゥクトゥクから降ろされて会場となる広場まで15分位歩く。
日本の祭りと同様、屋台がところ狭しと並んでおり、どこか懐かしい雰囲気。
会場にやっとこさたどり着く。
会場までの間にある屋台でコムローイを売っているが、火をつけたものを飛ばすのでちゃんとした規格があるらしく持ち込みできない。ゲート前で全部没収となる。
会場内で1つ100Bで売っているのでこちらを買うように。
会場内は16時すぎにはすでに8割が埋まっていた。
会場横の建物に三脚がずらっと並んでいる場所があり、そこがベストスポットらしいのだが近づけそうにもないので空いている場所にとにかく座り込む。
それにしても日本人が多い。
飛び交う日本語の渦の中で日本人なのにビビってしまう。僕らは日本人宿にほとんど泊まらないので、ここ最近日本人に遭遇していなかった。だからこれだけ高密度の日本人の中だとなぜか落ち着かないのだ。日本に帰れるかな?
と、思っていたら場内アナウンスで可愛らしい日本語が聞こえる。
タイ語、英語、日本語、中国語のアナウンスが代わりばんこで注意を促す。
ひしめき合う人たちの間を日本人団体客がぞろぞろと小さな旗を先頭に現れる。彼らはそのままVIP席の方になだれ込んだ。日本からのツアーだろう。タイ人の祭りなのに、特等席を占領する日本人。主催者側もこれで良いのだろうか?
そう思っていたら何でも1週間後に外国人用のローイクラトンを行うらしい。こちらは外国人だけで行われ、一人100ドルだとか。
どこも同じなのね。
我が墨俣城を何とか構築できたは良いものの、あとはただただ暇なのだ。
芝生の上にコンビニの袋を敷いて、その上で時がすぎるのを待つ。
とにかく暇だったので、暫し本番に向けてカメラの練習をしている人でカメラの練習。
18時、お坊さんが列になって入ってきた。これから儀式が始まる。
アナウンスでお辞儀などのお祈りの仕方を習う。
会場の奥の祭壇で儀式があるのだが、これはよっぽど前の方の席をとっておかなければ見ることは出来ない。僕らはただ飛び交う4ヶ国語の音声の波に身を委ねる。
会場の外でコムローイが飛び始める。
売れ残りの偽コムローイを飛ばしているのか、それとも現地の人が早々と始めているのだろうか?
20時近くなってやっとロウソクに火が灯される。
闇が等しく垂れ下がっていた会場が、ぽつぽつと明るくなっていく。
コムローイを広げてロウソクから発する暖気を吸わせる。
和紙のようにパリパリしていたコムローイが、むくむくと膨れていく。
辺りはオレンジ色の光で埋め尽くされ、人々の笑顔が照らされる。
アナウンスの一声で、コムローイが一斉に放たれた。
暗闇に吸い込まれるようにコムローイの群れが飛び立つ。
淡い光がフラフラしながら空を駆ける。
それを押し上げるような大歓声。
解き放ったその瞬間、僕の周りはまるで昼のように明るくなった。
澄み切った黒い空にコムローイの黄色い花が咲く。
宇宙に漂っているような感覚だ。
それくらい見とれてしまう。
全部で3回ほどコムローイを上げる。
空は大きな星がたくさん瞬いているように、ゆったりとした光で覆われていた。
そんな景色に見とれていたいのは山々だが、出口付近ではすでに戦争が始まっているのだ。
なんせ会場はメージョー大学の敷地のかなり奥の方。
乗合バスやトゥクトゥクが待っている大通りまではかなりの距離なのだ。そこ目掛けて会場にいる何千人もの人間がドブ川のようになって押し寄せる。
賢明なる先導者たちは3回目のコムローイが上がる頃にはすでに押し合い圧し合い出口に殺到していた。
もちろんその中に僕らはいた。
気分は先頭を駆ける自由の女神だったのだが、現実はドブ川に沈む阪神ファンのようになっていた。
とにかく進まない。
その間も360°から人が詰め寄せる。さっきまでの感動はどこえやら。そこには皆が同じ意識で導かれているにも関わらず、何の統制もない烏合の衆が見事に出来上がっていた。
僕らは何とか隙間を縫いながら喧騒を突破し、するすると道を駆ける。
早めにトゥクトゥクでも乗ろうかと思いきや「チェンマイまで1人800B」なるバフェットさんでも理解不能なインフレが発生している。来るときは二人で300Bだったのに。
トゥクトゥクは早くも諦め、乗合バスを探す。乗合バスは人数が集まり次第発車するので、詰め詰めの乗合バスを発見し頭から乗り込む。これで100Bだ。
※大人数(8人くらい)で往復の乗合バスを貸しきればかなり安く行くことができる。
チェンマイからメージョー大学までの道は3車線ほどの高速道路がまっすぐ伸びている。
早くも車が混みあい始めそうだったが、何とかおっ始まる前に抜けることが出来た。
しかし、すごい人だった。
あの美しい景色は何となく覚えている。
ゴーゴーバーのオカマちゃんたちのダミ声が響く道をとぼとぼ歩いて安宿に帰る。
この日はぐっすり眠ることが出来た。