プラウベルマキナ67という中判カメラ
プラウベルマキナ67(PLAUBEL makina67)という中判カメラについて語っていきます。
リンクのような言い訳をしながら、プラウベルマキナ67という中判カメラを買いました。
プラウベルマキナ67とは、興味のない人から見れば「WW2のドイツ軍の弁当箱かな?」と思われるでしょうが、れっきとした日本製カメラであり、カメラ沼界隈では『ある意味伝説のカメラ』と畏敬の念を込めて呼ばれております。
何が伝説かと言いますと、
①特異な誕生秘話
②他に類を見ない唯一無二の変態カメラ
③伝説プライス
でしょうか。
今回は僕が愛でてやまないプラウベルマキナ67、通称『撒金無』=マキナちゃんについて書いてみようと思います。
①特異な誕生秘話
プラウベルマキナ67は、非常に複雑な家庭に生まれております。
まずプラウベルとは、1902年創業のドイツのカメラメーカー。
それが1975年、日本の「カメラのドイ」の土居君雄社長にブランドごと買われます。
この「カメラのドイ」は、土居君雄社長が一代で築き上げた巨大カメラ販売店(当時日本3位)であり、あのヨドバシカメラと熾烈な競争を繰り広げた大企業。
そのカメラのドイが1978年に生み出したのが、プラウベルマキナ67というわけです。
はい、良い質問です。
意味がわからないでしょう。ここがポイントです。
「カメラのドイ」はカメラ販売店であり、カメラメーカーではありません。
プラウベルマキナ67は、カメラマニアである土居君雄社長が作り上げた「ぼくのさいきょうのかめら」なのです。
土居君雄社長は、小西六(のちのコニカミノルタ)の天才技師内田康男に設計を依頼し、さらに小西六に頼んだくせに裏でNikonにレンズを注文しているという金持ちの道楽・・・もとい世界最強のカメラマニア魂を発揮して生まれたのがプラウベルマキナ67です。
Plaubel Makina 67 Chief Designer, Yasuo Uchida / 内田康男
そんなプラウベルマキナ67の生みの親の一人、内田康男さんのインタビュー。
昭和のおおらかで破天荒な時代が感じられるお話です。
要するに、
ブランド:歴史あるドイツのプラウベル
設計:小西六の天才内田康男
レンズ:日本が誇るNikonのニッコール
どうですか!
こんなめちゃくちゃなカメラ、昭和の時代にしか作れませんよ!
まさに夢のオールスター、巨人大鵬卵焼きです。
②他に類を見ない唯一無二の変態カメラ
そんな複雑な家庭に生まれ育ったプラウベルマキナ67は、もうキレッキレのグレッグレ、そんじょそこらのカメラには纏えない「ヤバいオーラ」を放っています。
新宿カメラ街界隈曰く、変態カメラ(褒め言葉)であると!
じゃあどこが変態カメラなのかを探ってみましょう。
Nikonの中判レンズ『ニッコール80mm F2.8』
まずプラウベルマキナ67の代名詞といえば「ニッコール80mm F2.8」※4群6枚 マルチコート:フィルター径58mm
あのNikonの数少ない中判カメラ用レンズであり、アラーキーや石川直樹や金村修が惚れ込んだ名玉です。
しかも80mm固定という潔さ!35mm換算で約40mmという焦点距離。
さらに後述する蛇腹のおかげで、不要反射光の吸収減衰に大変優れているらしい。う~ん意味はわからんがなんかかっこいいじゃないか!
さらにさらに完全機械式レンズシャッターです。
露出計用に電池を使いますが、電源が一切必要ナシでシャッター切れます。
これね、デジタルカメラ世代には意味がわからないと思いますが、僕はフィルムカメラはまさにここがポイントだと思います。
デジタルカメラはSDカードの容量までなら何千枚も写真が撮れます、ですがバッテリーが無くなったらただのプラスチック文鎮です。
機械式シャッターであれば、フィルムがあるだけ撮れます。そうそう壊れませんし、電気のことを何一つ考えずに撮影に集中できます。
これ、山やってる人なら共感してくれる人が多いと思います。
ちなみに一番大事なレンズの描写についてですが、発売時の昭和辛口レビューでも高評価であったとか。
このレンズこそが、土井社長が無理矢理ねじ込んだ伝説のレンズなのです。
また作例ができたら貼っておきます。
鋼鉄の中判弁当箱
中判6×7カメラにもかかわらず、
高さ115mm、幅162mm、 奥行56.5mm、重量1250g
この携帯性こそがプラウベルマキナ67の最大の長所です。
登山に持っていったんですが、まさにお弁当箱くらい。プロテインバーより薄いんです。
蛇腹を出すと写真のようになります。
蛇腹をたたむと、とてもコンパクトに。
なので中判カメラにもかかわらず、片手で持てちゃいます。
このコンパクトさの所以は、レンズシャッターと蛇腹のおかげです。
シャッターがレンズに組み込まれているのでボディが激薄にできます。
さらに蛇腹を利用することで、携帯性にパラメータ全振りしています。
中判カメラはやはり大きなカメラが多いです。ハッセルブラッドのようにスタジオカメラとして使われていたものが多く、気軽に屋外で、しかも登山なんかで使うのは難しいカメラです。
ですがプラウベルマキナ67は、中判フィルムの高画質を気軽に使えるカメラなんです。
なので、登山などの風景写真だけではなく、都市でのスナップに使っている写真家も多いです。
ちょっと写真の縮尺がおかしくなってますが、「Lowepro ノバ 140AW 2.9L」に入れても余裕があるくらいコンパクトです。
登山カメラ、旅行カメラとして重宝されたポイントがここです。
登山写真家の石川直樹さんが使っていることでも有名です。
エベレストやK2などの極地で高画質の写真が欲しい場合、故障しにくい機械式シャッターでコンパクトになる中判カメラ「プラウベルマキナ67」という選択は非常に理に適っていると思います。
その他:レンジファインダーカメラと無愛想な露出計
形状を見てもらえばわかると思いますが、レンジファインダーカメラです。
LeicaM型と同じで、一眼レフカメラしか使ったことがない人からすると「ボケが見えへんがな」「構図決まらへんがな」「キャップ付けたまま撮ってしまうたがな」といわれるあれです。
レンジファインダーカメラのメリットは、構図外も見れて、慣れればピント合わせが決まりやすいところでしょうか。
正直、M3を持っているのでプラウベルマキナ67のファインダーはショボいとしか言いようがありませんが、昭和の金持ちの家の窓みたいで懐かしい気持ちになります。
露出計は簡素なボタンを押すと+か◯か-で伝えるという無愛想な中央部重点測光方式。
実際に使ったところ、精度は想像したより良かったですけど、よく壊れるらしい。
まあ機械式シャッターだし、脳内露出計を鍛えましょう。
③伝説プライス
この存在自体が希少なプラウベルマキナ67ですが、中古価格はむっちゃ高いです。
なんせ実際に購入した僕が言うのですから説得力あるでしょう!
まず値段のおったまげな理由は、先程書いた①特異な誕生秘話と②他に類を見ない唯一無二の変態カメラが影響しています。
特異な誕生秘話からして、コレクターズアイテムになるために生まれたかのようなカメラです。ドイツの歴史あるメーカーが日本のカメラ会の永ちゃんに買い取られ、その時代の最高の技術をメーカー飛び越えて組み合わせたカメラ。
こんなカメラ、他にありますか?男の中の男ゼンザブロニカくらいか?こちらは格安。
そして、他に類を見ない唯一無二の変態カメラの宿命ですが、全く売れなかったという希少性です。
販売台数自体極端に少なく、兄弟機であるプラウベルマキナ67Wに至っては3500台しか世に出ていませんので半端ないプライスがぶら下がっています。
なんせ1970年代後半といえば、AE撮影やオートフォーカスのようにカメラが勝手に撮ってくれる利便性が流行の最先端であった時代です。
それまで完全フルマニュアル機械式カメラしかなく、お世辞にも一般庶民が使うにも買うにも敷居が高かったカメラが、オイルショックを経て庶民にも使いやすいように改良されて世を斡旋し始めた時代において、こんな異端児を出したんだから売れなくて当然です。
中判カメラという時点でプロ用ですので、AE撮影(自動露出)なんか要らないと言った内田康男さんの判断は中古市場で花が咲いたようです。
さらにカメラのドイの倒産や修理サービスが困難となり、そしてそもそもフィルムカメラ事業全体の超縮小、その中でもさらにイロモノの中判フィルムの存在ミクロ化、これにより伝説的な希少性を得たのでした。
僕が手に入れたのもまさにここです。
このカメラこそ、現代というアイデンティティが確立しづらく、自己承認欲求が満たせない、グローバリズムにより到来した没個性的無味乾燥な世界において、最高の自己満足増殖装置なのです。
リンクの記事でも書いた通り、完全機械式でマニュアル撮影、しかも無駄にランニングコストがかかり、結果は現像するまでわからない、そんな悪条件こそ現代に失われた主体性を感じ取ることができる行為なのです。
そしてユニクロのようなファストファッション的大量消費社会において、これほど我が強く個性的過ぎて浮きまくっている製品は存在しません。
昭和のギラギラした感じが集約したこのプラウベルマキナ67こそ、近代資本主義の行き着いた先の先にいる怪物なのです。
プラウベルマキナ67の歴史とストーリー、デジタルカメラにはないじゃじゃ馬的使いづらさ、時代に逆行した消費活動、そしてフィルムカメラの持つ一発勝負の芸術的感覚、この全てが現代社会に疲弊している狩猟採集民の末裔への最高の餞なのです。
そして私はプラウベルマキナ67の元に召されるであろう!https://t.co/dpBcsVeQTd
— 鉄人96号 (@tetsujin96) 2020年4月5日
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そして私はプラウベルマキナ67の元に召されるであろう!という宣言に嘘偽りはありません。
これはプラウベルマキナ67並みにイカれた誕生秘話と変態スペックを持ったとある人間(ニュータイプ)の演説をもじったのですが、これ悲しいけど本音なのよね。
現代に不要とされたからこそ必要である思想、それがプラウベルマキナ67なのです!
・・・と嫁に言ってはみたものの、相手にされず枕を濡らし、毎夜酒を片手にマキナを磨く。
作例
まあともかく写真見てってよ。
登山との相性は中判カメラ界最高
贅沢なひとときを噛み締めて撮れ!
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