ペリト・モレノ氷河ミニトレッキングとアルゼンチンお肉祭り
3月4日
エルカラファテでアルゼンチンお肉祭り(※後述)をしながら、この日はペリト・モレノ氷河ミニトレッキングへと向かう。
いきなりだが、非常にこのツアー「お高い」のだ。
正直、氷河はフィッツロイでも見たし、これから向かうパイネ国立公園でも見られるため行くか行くまいか非常に悩む。
「せっかくここまで来たのだから・・・」というウェルテルもびっくりなバックパッカーの宿命的な悩みが頭をもたげる。
パタゴニアなんぞこの先いつ来られるかわかったものではないし、また来ようにも莫大なカネがかかる。だからといってほいほい遊べる御身分ではない。御老公様がうらやましい。
しかし、ペリト・モレノでは氷河の上を歩けるのだ。氷河が最近剣岳でちょこっとだけ見つかった日本からしてみたら、こんな体験はなかなかできまい。
行かずに後悔するよりも良しとし、ツアー会社に駆け込んだ。
氷河ツアーは遠目の見物だけ、船で遊覧、氷河の上をミニトレッキング、氷河の奥までトレッキングなどなどバリエーション豊かである。どれもお高いのだが、やはりポピュラーなのはミニトレッキングである。
アイゼンをつけてガイドと共に氷河の上を少しだけ歩く。アイスクライミングなどの難しい技術など必要がないので素人でも楽しめる。
ミニトレッキングは800ペソ(80USD)だ。さらに別途入場料130ペソ。1万円近い出費となる。
傷口に豆板醤を塗りこむような酷い話だが、後々考えると妥当な値段であったと今では思う。
朝9時、バスがホテルに迎えに来た。
各ホテルを周りながら客を集めていくので、最初の方に当たると町中のホテルをたらい回しにされるというイベントが発生する。
10時くらいに席が埋まり、一路ロス・グラシアレス国立公園へ・・・しかし・・・
車内に大声で舌を噛み切りそうな勢いのままスペイン語を捲し立てるアルゼンチンババアがいるのだ。
ド派手なメイクにヒョウ柄のボディコンみたいな格好のおば様は、声も見た目も夏木マリにそっくりなのだ。湯婆婆のような怒鳴り声が車内にこだまする。取り巻きのアルゼンチン人や周りのチリ人相手にオン・ザ・ステージ状態。
目の前で眉間が割れそうなくらいしかめっ面のイギリス紳士を気にも留めない夏木マリは目的地につくまでの間、延々しゃべり続けた。
ロス・グラシアレス国立公園に着くと、ガイドが来て説明を受ける。
展望台からの見学である。目の前に巨大な氷河ががっぷりおつで構えている。
フィッツロイで見た氷河などかき氷にしか見えない。
あまりのデカさに「人がゴミのようだ!」と言ってしまいそうになる。
船がこんなちっさい。
今日は寒かったからかあまり豪快な崩落は見れなかったが、運が良ければ水しぶきを上げて湖に崩れゆく大氷塊を見ることができる。
パタゴニアの氷河は成長が早いため、他では見ることが稀有な大崩壊がよく見られるのだ。
といっても、寒いしずっと氷河を見ているのも飽きたので集合時間近くなったのでバスターミナルで待っていた。
しかし、誰もこない。この日は何としたことかツアーにおける鉄則を怠っていたのだ。
ツアーにおける鉄則とは、ツアー参加者の顔ぶれやバスのナンバーなどを覚えておくことをいう。
言語の巨壁を持つ我々は、英語の説明も2割ほどしか理解できないため周りの人間を見て判断するしかない場面が多々ある。しかもここはスペイン語圏。誰かに聞きたくてもうまく伝わりづらい可能性が高い。
しかし、その鉄則を忘れていたのだ。
登山明け恒例連日の暴飲暴食のせいで消化に多大なエネルギーを送り込まなければならないため、慢性的な寝不足状態であった。夏木マリの独壇場で息苦しかったので、イヤホンをしてバスでグースカ寝ていたため、というか夏木マリの印象が他を喰らい尽くしてしまったため、同じツアーメンバーがわからない。
集合時間になっても誰もこない。
もしや、置いて行かれたのか?
まさか!南米ではとにかく目立つ東洋人を皆が忘れてしまうことなんてさすがになかろう。
いや、バスの席が決まっていなかったから誰も気づかなかったんじゃ・・・
なんて不安で押しつぶされそうになり、オドオドしていたら救世主が現れた。
夏木マリだ!!!
夏木マリの濁声をダンボのようにしていた耳がキャッチした。
救世主は夏木マリだったのだ。
そのあとぞろぞろ集まるツアー仲間。どうやら「1時間半の自由行動」と思っていたのが「13時半までの自由行動」だったらしい。
バスターミナルでもゲラゲラ大笑いするアルゼンチン版夏木マリに感謝しつつ、バスに乗り込む。
バスは船着場へ。
船で氷河のすぐ近くに上陸した。
全体が青いのでいまいち大きさがわかりにくかったが、目の前にするとビルのような高さである。
堆積した雪がせり出してこんな巨大な氷河になったと思うと、便秘ってやばいなって思う。
英語、スペイン語のガイドに各自別れ説明を受ける。
クランポン(アイゼン)を着けてもらっていざ氷河へ。
踏み心地は固い雪。雪が積もった次の日の朝の溶け始めくらいの雪質。
はじめは歩きにくいがすぐに慣れる。
ガイドを先頭にカモのように進む。
青すぎる氷河の上は違う惑星に降り立ったようだった。
ところどころに氷河の裂け目があり、奥深くを覗くとさらに青いのだ。
寒さも忘れ、一同はしゃぎながら歩き行く。
遠近感がおかしくなる氷河の景色。
ガイドの言うとおり歩くも、けっこう気をつけないと危ない箇所がある。
ガイドは2人しか付かないので、たまに客を先頭に歩かせたりする。
「こりゃ日本じゃ絶対に無理だな。」
嫁とそんな話をしながら歩く。
なんせ生きている氷河の上だから手すりも看板も立てられない。多少気をつければなんてことはないが、日本なら難しそうなツアーではある。
最後は氷河の氷でオンザロック!
目の前でガイドが氷を掘って入れてくれる。
寒さに震えながら、氷河の上で飲むウイスキーの味は最高である。
「胃の中でぽっと火が灯る」と中島らもの小説であったが、そんな感じがするウイスキーだった。
氷上から降り立つ。
時間にして1時間位だろうか。
800ペソという値段は、打倒だと思う。
朝11時から2時間ほど氷河を観察し、船に乗って氷河近くまで行き、ガイドと共に歩く。
氷河の管理や夏場しかツアーができないことを考えると800ペソは安い。
そんな氷河の上で僕が何を考えていたかというと、
「肉、食いてえ。」
であった。
ジャンプ漫画の主人公たちが好きそうな肉が、ここアルゼンチンでは格安なのだ。
話は2日前に戻る。
フィッツロイ下山後、エル・カラファテに直行しアサード食い放題で胃に火がついた。
次の日は全くのお休みとし、スーパーで大量の肉を買った。
なんせ牛肉が1キロ500円とかで買えるのだ。
味もペルーの野獣臭い肉と違い、普通に美味しくいただける。
さらにビールが安い。
ブエノスアイレスでアルゼンチン人宅にホームステイしていた日本人旅行者に教えてもらったのだが、アルゼンチンではビールの空きビンをスーパーに持って行くと割引券がもらえるのだ。※写真の機械に空き瓶を入れる。
それを使うと1Lビールが100円もしないんだから、泡の涙がでる。
物価がクソ高いアルゼンチンではなぜか肉と酒だけは異常に安く、真逆の日本人をたらしこめるのだ。
ということで連日の肉食いだ。
前世がたぶんハイエナだった僕は、夢であった主食「肉」をやってみたかった。
アルゼンチン人の主食は肉だ。日本人の主食は米。そう、アルゼンチン人は米を食うみたいに肉を喰う・・・そんな話が南米に降り立った日本人から耳が燻製になりそうなくらい聞いた。
この日のメニューは、ステーキ、肉じゃが。
合わせて1キロ。嫁さんと2人で1キロ。もちろん米はない。
肉なんて日本じゃあ豚か鳥ばかり。牛肉は給料日にしか行けない焼肉屋で夫婦そろって泣きながら喰っていた。
そんな牛肉が目の前に転がっている。ステーキというか肉塊だ。
嫁さんの肉じゃがも最高の出来で、そんな肉をビールで流し込む。
薬師丸ひろ子ばりに「快感」を叫んだのは言うまでもない。
主食「肉」
感想として、『意外に腹が膨れない。』
肉ばかり2人で1キロ喰ったが、思ったより腹が膨れなかった。
腹から牛肉がはみ出そうなくらい喰ってやろうと思ったが、肉だけだとそうでもなかった。
しかし、満足感は計り知れない。
口の中も胃の中も視界に入るすべても肉なのだから。
というわけでせっかくの氷河の上でも帰ってからのお肉のことで胸がいっぱいだった。
生物としての最低限の欲求に、世界でもここくらいしかない氷河の絶景が屈したのである。