闘牛場にて
闘牛場はごった返していた。
追われる牛と共に興奮したスペイン人が推し寄せる。
闘牛場内にはすでに何人もの男たちがいた。彼らは友人たちといつものようにふざけあったり、観客席の誰かにキスを送っている。
スペイン男の晴れ舞台。平静を装う彼らの中には、どのような思いが込められているのか。
生命を賭けた舞台の上で、誰もが主役の座を狙っている。そんな気が張り詰めているような気がした。
観客席が埋まると、盛大な音楽が鳴り響く。パレードも牛追いも、この闘牛場で最大の熱狂を生むための前座でしかない。
男たちは皆、相手が走り込んでくるであろうそのゲートに集中する。
何の前触れもなく、一匹の牛が猛然と駆け込んできた。場内の熱気が最高潮に達する。血に飢えた雄叫びのようにも聞こえるその渦の中で、牛はすくっと佇んでいた。
牛は場内の熱狂に驚き、その場で足踏みしながら辺りを見渡す。
一人の男が意を決して飛び込む。その始めの一歩は、どれほどの決意なのか?
さっきまでまごついていた牛は、男に向かって一気に踏み出した。そこには恐怖という一本の道しかない。男はその先にあるものを掴みにいく。
闘牛場の歓声は夜まで鳴り止まない。