カオス都市カイロとピラミッド
7月29日
気づけばエジプトの首都カイロに降り立っていた。
旅の予定なんぞあってないようなものだ。特に1年もかけて世界一周するとなると、僕のような移り気の風来坊なら尚更というもの。
旅先ではいろんな旅人に出会い、いろんな話を聞く。そしてまた一つ行きたいところが増える。気づけば地球を3周くらいしないと気がすまなくなってきた。
だから世界一周旅行券は僕達には合わない。
本当はトルコからイランへ行くつもりだった。
旅人曰くイランはステキな国だという。イランという国に良いイメージは一つもなかったのだが、イランの人々はかなり優しいらしい。これも旅ならでは。
しかし、いきなり始まった隣国イラクの内戦。イランも人事ではなくかなりきな臭い情勢に。
ならばと正反対のイスラエルに行こうと思った。なんせエルサレムは聖地のオンパレードだ。
しかししかしそのイスラエルはガザ地区への地上戦を始めてしまった。
つい最近まで行っていた人は「大丈夫」というけれど、混迷極める中東情勢の中で鳩ポッポな日本人がぽつんと突っ立っているのは気が引ける。
なので、気づけばエジプトにいた。これも旅ならでは。
僕らは台灣の友人夫婦とともにカイロにやって来た。彼らとは久しぶりにトルコで出会い、そしてエジプトにも一緒にやってきた。なぜか日本人といるよりも落ち着くのが不思議だ。そんな僕達を待ち受けているのは・・・
カオス都市カイロだ。
カイロはその名に恥じぬ狂いっぷり。
アラブ人は今まで出会った中で最強の戦闘民族だ。町中で勃発するバトル!バトル!バトル!
鳴り止まぬクラクション、一切避けることのない人混み、押し寄せる詐欺師、暴走する車の間を暴走するバイク、駄々こねて泣き叫ぶ子供を殴る父親、混雑する道の真中で開かれるマダムの井戸端会議・・・
エジプトは外食の習慣がないらしく、レストランなどがほとんどない。なので、ラマダン明け祭りで人口爆発真っ最中のカイロのダウンタウンではマクドナルドやケンタッキーがリアル地獄絵図と化す。そんな戦闘民族アラブ人がひしめくケンタッキーに僕らは突撃した。
戦闘民族といってもさすがイスラム教の国。殴り合いは滅多にない。その代わりに強烈な怒号と激しいアクションが混じったイスラムファイトを繰り広げる。これは自己主張の殴り合いだ。一歩引いたら負ける。さすが遊牧民族の末裔。話し合いは存在しない。主張のねじ込み合いだ。1mmでも相手が先に行けば勝敗は決する。日本人のように一歩引くという概念はない。
ケンタッキーのレジの前は並ぶというモラルはのっけから崩壊しており、人々は一個の肉塊と化す。押しくら饅頭オリンピックがあれば、毎年決勝戦はエジプト対インドだろう。
客対客、客対店員のケンカがそこいらで始まる。太ったおばちゃんはほぼ白目になるくらい目ん玉をひんむいて怒鳴りまくる。
しかも、レジでは怒った者勝ちなのだ。怒鳴りまくれば店員が面倒臭がって先に商品を渡してしまう。それを見てさらにキレる周りの人達。
僕たちはひしめき合う肉の壁の中で強烈な怒気と臭いに気を失いかけながらも、やっとこさフライドチキンを手にした。
40分かかった。もうお腹いっぱいだった。
なぜ飯を食うだけでこんなに疲れるのだろう・・・
ギザのピラミッド
喧騒のカイロを離れ、バスでギザへ向かう。
もちろん目当てはピラミッドだ。
入場口前に着くとそこにはテレビで見慣れた景色があった。
80エジプト£を払い入場。
途端にラクダや馬車の客引きに襲われる。
聞きしに勝るウザさだ。
精悍な顔立ちのスフィンクス。
本当は鼻と顎があったとか。そんなスフィンクスをカメラに収めているとここでも怪しい輩が寄ってくる。
「ナイスな写真撮ってあげるよ。スフィンクスとキスするのさ」
とかいってポーズを要求してくるが、小奴らも写真代をせびる小悪党なので無視する。
ここでは写真を撮るときに注意が必要だ。うっかりラクダや人にカメラを向けようものなら撮影代をせびってくるし、自分を撮ってもらおうとカメラを預けようものなら「データを消されたくなければ金をよこせ!」なんてこともあるとか。
あとこういう兄ちゃんたちがピラミッドパワーでテンションが上がりまくっているので、アジア人と見ると執拗にちょっかいを出してくる。
要するにピラミッドどころではないくらい面倒くさいイベントが多発するということ。
でも意外に軽くあしらっているだけでも楽しかったりする。
それにしてもこの糞暑い国でよくもまあこんなものを作ったものだ。
最近の学説では王族の墓を作るというよりも、農閑期に収入がない人々への公共事業だったという説もある。
王様も色々大変だ。
そんな人類の宝にも平気で登って写真を撮るエジプト人。
本当は化粧岩できれいに覆われていたピラミッドだが、近所の人が建築材として勝手に持って帰ってたりしたらしい。だから今やその面影はちょっとしか残ってない。
強いぜ!エジプト人!
でも今のエジプトに住んでいる人たちはあとからやってきたアラブ人が多いので、そこまでピラミッドに思い入れはないのかもしれない。クレオパトラもギリシャ系の金髪美人だったっという説もある。でもクレオパトラが魔法少女だったということは歴史の教科書にも載せるべきだと思う(まどか☆マギカを見てみよう)
見事にスフィンクスとコラージュしたナイスガイなパパさんをあとに、ピラミッドを立ち去る。
なんてったって暑いのである。
トリビアの泉でも取り上げられたスフィンクスが眺めているケンタッキー。
スフィンクスに見せつけるようにして食ってやった。
ホテルに帰ってから4人でビール。
エジプトもイスラム国家。酒はあまり売っていない。
だけど宿泊していたダウンタウン内のホテルの直ぐ側にキンキンに冷えたビールを売っている酒屋があったので、とても神に感謝した。
終わらないカイロの夜。
夜中までクラクションは鳴り止まない。
気づけばエジプトをボロクソに書いてしまっているが、もちろん良い人もたくさんいる。10人に1人は至って優しい人だ。
エジプト人は道やバス停で迷ったりしていると、よく声をかけてくれて案内してくれる。
ほとんどの人はそのまま自分の店の中へ連れて行ってくれるほど優しい人だ。
まあともかく勧誘や詐欺が多いので、あまり人を信用しすぎるのはやめたほうが良い。
でもそんなエジプトでも奇跡があった。
バスチケットを買いに行った僕らは、やっぱり道に迷った。
人混みに流されて気づけば変な所に。
そこで通りかかった人に道を尋ねた。
「エクスキューズミー」
振り返ったおばちゃんは開口一番、
「あんた、日本人?」
日本語だった。なんと偶然声をかけたおばちゃんは、日本人と結婚して20年以上大阪に住んでいた人だった。
おばちゃんは、いろんな人に道を聞いてくれて僕達を案内してくれた。
「わたし、日本人大好き。わたし、主人とてもやさしかった。でも2年前死んだ。わたし、悲しい」
そういって目に涙を浮かべるおばちゃんは、最後まで付き添ってくれた。お礼をいうと、
「あんた、わたし、兄弟。サンキュー、いらない。あいしてる」
そう言っておばちゃんは、喧騒のカイロの町の中に消えていった。
エジプトは人情味あふれるところです。